忘却葬送曲
fifth movement 4
「・・・そこに、誰かいるのか」
間もなく入口の方に現れた男は、一瞬驚いて目を見開いたあと、次の瞬間には素早く銃を向けて尋ねてきた。
そのままゆっくりと僕達に近づいて来た彼は、透夜の姿を見つけると、慌てて銃を下ろす。
「子供がいたのか・・・ごめんな、怖がらせて・・・うっ」
そう言った男は、苦しそうな声を出して膝を付いてしまった。
よく見れば、彼の片足からは血が流れ出していた。どうやら酷い怪我をしているらしい。
「大丈夫ですか。その足、早く止血しないと・・・」
「俺はお前達を助けるために来たんじゃない、殺すために来た軍人だ。・・・心配なんかしなくていい」
近寄ろうとする僕を、彼は鋭い声で制した。
「・・・それでも僕は、銃を下ろしたあなたを助けるべきだと思います。止血ぐらいしか出来ませんが、やらせてください」
僕はすっかりボロボロになったズボンの端を破り、彼の傷ついた足に巻きつける。
されるがままだった男は、困ったような笑顔を浮かべて言った。
「ありがとう。・・・ますますお前達を撃つことはできなくなったな・・・軍人失格だ」
「僕にとっては好都合です。ちゃっかり命拾いしましたね」
「そうだな、してやられた。・・・はは」
「ふふふ・・・」
「おかしな奴らだな、急に笑い出して・・・そんなに面白かったか?」
先程までの緊迫した雰囲気が嘘のように笑い合う僕達に、やり取りを黙って見守っていた正志が言った。
「ふふ・・・なんか緊張が解けたら笑いが止まらなくなって・・・」
その場所には酷く不似合いな、僕達の笑い声が洞窟内にこだました。
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