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忘却葬送曲
Fourth Movement 8

夕食を食べ終わったところで、僕は今日運んできた荷物を彼に手渡した。

「はい、これ。頼まれていた本だよ」

「おお、ありがとう。いつもありがとうな」

僕は以前から友人だった正志に頼まれ、時々こうしてT島に来ては本を届けていた。
島には本屋はなかったし、彼の読みたい本は政府が禁じた本が多く、なかなか普通のルートでは手に入らないからだ。

T島は本当に小さな島だったけれど、若い夫婦や子供もそれなりに住んでいた。
正志が立ち上げた研究所、そこで働いている人々やその家族がいたし、元々この島には、何らかの理由で本土には居づらくなった人が集まっていた。
軍や警察の目も、この離島ならば届きにくい。

軍の重要機密、新型兵器製造の知識を持っている正志もまた、軍の研究所を辞めてから警察の目が厳しいらしく、この島へ来て研究所を始めて以来、本土へ戻ったことはない。
透夜も生まれてすぐにこの島に来てから、海を渡ったことはないだろう。

「それからこれは透夜に。面白そうな本を選んできたけど、どうかな」

「わあ、ありがとう!」

受け取った彼は満面の笑みで返してくれた。その嬉しそうな顔に、思わず僕の表情も緩む。

僕から数冊の本を受け取った彼は、早速読むために自分の部屋へと入っていった。食卓には正志と僕だけになる。

「・・・あれは禁書になった物じゃないか。よく手に入ったな」

「ちゃんと探せば見つかりますよ。愛されている本は、誰かが大切に守ってくれているものです」

「守る、か・・・。お前ならきっと一度守ると決めたら、何が起きても守りぬくんだろうな」

急に声の調子を変えた彼に、僕は酷く嫌な予感がした。

「・・・何か、あるの?」

「軍の動向が怪しい、俺達の研究を嗅ぎつけたのかもな。近日中にこの島に来るという情報もある。・・・お前を呼んだのは、そのこともあるんだ」

「透夜を、この島から連れ出すの?」

「ああ。研究所は分かりづらい場所にある、そう簡単には見つからないだろうが、本格的に探されれば時間の問題だろう。・・・俺は兵器製造の疑いで捕まる。そんなところを透夜には見せたくない。その前にあいつを連れて行ってくれ、・・・頼む」

頭を深く下げ、いつになく真剣な声で言う彼に、僕は少し戸惑ってから答えた。

「僕は構わないよ・・・でも君は・・・」

「こんなことに巻き込んで悪いと思っている。いつ軍が来るかわからない、この状況でお前を呼んだことも。・・・ただ、最後にどうしても会っておきたかった。お前に見届けて欲しかったんだ」

顔を上げた正志は、僕の目を真っ直ぐに見つめる。
その強い眼差しを受け止めた僕は、指一つ動かせず、ただ彼の姿を瞳に映し続けた。

「お前の記憶に、今の俺を残してくれ。・・・そうしてくれたら、俺は何があっても笑っていられる気がするんだ、真琴」


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あきゅろす。
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