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忘却葬送曲
prelude 5

無理な抵抗はせず大人しく警察署まで連行された俺は、取り調べを行うために狭い部屋へと入れられ、座り心地が悪い椅子へと座った。俺へ向ける警察署員の冷たい視線に、心には不安が重くのしかかって来る。

「さて、生徒手帳で身元を確認したところ、君の名前は中原透夜、W高校に通う生徒だ。成績優秀、素行も良い。まあ、ここまでは何にも問題はない。だが、君の出身は・・・」

尋問している男は、俺の鞄から取り出したらしい、歴史の教科書を机に置いた。今日授業でやった範囲の、くしゃくしゃになったページを開いて指し示す。

「・・・T島。六年前の反政府組織壊滅作戦の、唯一の生存者だ。よく生き残ったね、君」

「・・・だからなんだと言うんですか。まだ俺は当時ただの子供で、何も詳しい事情は知らない。俺は大人がやったことに巻き込まれただけです」

男を睨みつければ、彼は小馬鹿にするような笑みを浮かべた。

「君は政府に仇なす可能性がある危険人物として、随分前から見張らせていただいたけどね。まあ、何も不審なところは見つけられなかったよ」

今日、あの本屋で感じた視線、・・・俺の予想は間違ってはいなかったか、良くも悪くも。

「だがしかし、今日でそれも終わりだ。・・・君は盗難されたこれを仲介人から受け取り、手に持っているところを発見されたのだから。君はもう、立派なテロリストだよ、中原君」

酷薄な表情でそう告げた男は、部屋の隅に置いてある、先ほど俺がガラの悪い男から預かったボストンバッグを指差す。

突然かけられた容疑に、俺は弾かれたように椅子から立ち上がり、大声で反論した。

「俺は、路地でぶつかった男からそれを押し付けられただけです!中に何があるのかだって、知らない・・・!」

「残念だけど、あのT島の生き残りである君がそう主張したって、全く説得力がないんだよ。・・君が馬鹿な子だったら、ある程度疑いも少なくなったかもしれないけど、優秀な君になら、この兵器だって効果的に使いこなせそうだしね。この国の政府は、未来の危険因子を取り除きたがっているから。・・・君の主張が正しかろうと、結果は変わらないよ」

顔を歪ませて下卑な笑いを浮かべる男に、一瞬頭に血が登り、思わず手を出しそうになる衝動をこらえた。

ここで暴れれば更に状況が悪くなるだけだ。・・・いや、事態はもうどうしようもないほど、最悪なのかもしれない。
この国の法律ならば、一生牢獄に繋がれる可能性だって十分有り得る。現在の警察と政府の癒着は、恐ろしく強い。
将来自分の身に降りかからないよう、ある程度刑法を独学で学んでいた俺は、・・・今の自分の状況が八方塞がりであることに、すぐに気がついてしまった。
両親もいないただの高校生である俺が、この容疑を解くには、金も地位も無さ過ぎた。

心の中を絶望が巣食い始める。目の前が、次第に真っ暗になった。


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