忘却葬送曲
Fourth Movement 2
家から少し離れたところにある、急な上り坂の前。
その待ち合わせの場所へ行くと、既に約束していた人物はそこに立っていた。
側にある自動販売機で買ったらしい缶の炭酸飲料を飲んでいた彼が、僕に気がつき振り返った。
「お待たせしました。こんな平日のお昼にお呼びしてすみません、永井さん」
「構わない。・・・透夜には秘密にしておきたい用なんだろう?」
「はい。さて、この長い上り坂を登りますか。ちょっと膝にきますが頑張ってくださいね」
「・・・確かにこれはきつそうだが、この先に何があるんだ」
永井さんは車がぎりぎり一台通れそうな、狭い坂道の先を見上げる。
「墓地があるんです。・・・今日は、そこに居る方に会いに行こうと思いまして」
僕の顔を一瞬だけ見つめた彼は、手に持っていた缶飲料を一気に飲み干してゴミ箱に捨てた。
「・・・そうか。何か供える物を持ってくればよかったな・・・飲み物でいいか。そいつが好きだったのはなんだ?」
「あなたが今飲んでいたものを、しょっちゅう飲んでいましたよ。・・・僕は好きじゃないな、味も色も人工的だし」
お金を自動販売機に入れた永井さんは、メロンソーダのボタンを押した。
ガチャンと音を立てて落ちてきた缶を彼は取り出し、鞄の中に収める。
「それでも美味いものは美味いんだ。・・・よし、登るか。上がりきった頃には汗だくになりそうだな」
「はい、行きましょう」
坂をゆっくりと登り始めた僕達には、まだ終わりそうにない夏の、強い光が降り注ぐ。
真青な空には、大きく成長した積乱雲が浮かんでいた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!