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忘却葬送曲
Third Movement 9

食器を片付けたあと、俺達はリビングのソファーに座って話の続きをしていた。

そのうちに近江に寄りかかるようにして眠り始めた透夜を、俺はベッドに寝かせる。
無防備な寝顔を見せる彼を、近江の優しい眼差しが見守っていた。

「・・・透夜にプレゼントしてくれて、ありがとうございました」

「いいや、なんだか親父の気持ちがわかった気がする、悩んで選んだ甲斐があったな。・・・こいつは、本当に変わったな」

警察署や地下図書館で見た彼の暗い面影は、全く残っていない。今では明るく笑う、普通の少年だった。

あの件があって以来、こうして俺はちょくちょくこの家に顔を出していた。

「はい。でも、変わっていないところも沢山あります。本を枕にする癖とか、カレーが好きなところとか、・・・人の目をしっかり見て話すこととか。本当に優しい子です、昔から」

「こいつとは、いつ知り合ったんだ?・・・血は繋がっていないんだろう」

「・・・それはまた今度にしましょう、今日はもう遅いですから」

「・・・また来る。今度はもうちょっといい格好してくるさ。写真、撮るんだろう」

俺が笑って言うと、彼も嬉しそうに笑って返した。

「はい。また来てくださいね、永井さん」

玄関のドアを開いた俺は、一回手を振ってからその家から出て行った。
愛車のエンジンを掛けて、夏の蒸し暑い夜風をきって走り出す。

優しい嘘に包まれたこの世界は、相変わらず、きれいな星空を俺の目に映していた。

第三楽章 終


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