忘却葬送曲
Third Movement 7
「・・・透夜、起きて。こんなところで寝ては風邪をひいてしまうよ」
「・・・近江さん」
いつの間にか寝ていたらしい俺は、彼に優しくゆすられて瞼をゆっくりと開けた。
かなり長い時間眠っていたらしい、すっかり館内は窓から入り込む夕日に包まれ、時計を見れば閉館時間を過ぎてしまっていた。
慌てて俺は本を持って立ち上がる。
「すみません、すっかり寝ていたようです・・・」
「ふふ、本当に気持ちよさそうに眠っていたから、起こすのがためらわれたよ。・・・ああ、その本を読んでいたんだ、いいお話だよね・・・少し悲しくなるけれど」
「はい。この主人公は、どうして最後は笑って消えたんでしょうか。・・・残酷な真実を知ってしまったのに」
そう言った俺に、微笑んでいる近江さんが静かに語りかける。
「・・・死ぬためには、生きなければいけない。生きるためには、死ななければいけない。彼にとって、その人を心から愛せたことが、生きた証だったんだ。それを取り戻せたから、彼は笑って逝くことができたんだよ」
「・・・俺にはよくわかりません。幸せな時間が、永遠に続いていけばいいのに・・・」
うつむいている俺の頭を、近江さんの温かい手のひらがそっと触れた。
「ふふ、俺もそう思うよ。・・・さあ帰ろうか、透夜。お腹空いたでしょう」
「はい、・・・今日はカレーが食べたいです」
「うん、僕もそう思っていたところ」
幼い子供のように彼に手を引かれて、俺は出口へと向かった。
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