忘却葬送曲
Third Movement 2
「Y高校の編入試験、合格出来て本当によかったね。ささやかだけど、僕からプレゼントだよ」
手の込んだ朝食を食べ終わった俺に、彼はきれいに包装された箱を手渡した。
包装紙を破らないようにそれを慎重に開いていくと、中からは革製のウェストポーチが出てくる。
この前一緒に街へ出たとき、俺がショーウィンドウで見ていたものだった。
「わあ、・・・ありがとうございます。大切に、使います」
「ふふ・・・さあさあ、腰に付けてみてよ」
近江さんに急かされて、俺はもらったばかりのウェストポーチを身につけて鏡の前に立った。
その姿を後ろから見つめている彼は、嬉しそうに微笑んでいる。
「よく似合っているよ、・・・ああもうこんな時間か。今日も一緒に行くかい?」
「はい、もちろん」
ダークグリーンの軽四に遅れてやって来た俺が乗り込むと、近江さんはエンジンをかけて発車させた。
シートベルトを締めている俺に彼が話しかける。
「今日は天気がいいし、海沿いの道を行こうか」
「はい、本当に雲一つない快晴ですね、今日は」
青い海が隣に広がる道路へと出ると、近江さんは両側の窓を開いた。
車内に流れ込んでくる爽やかな潮風を、俺は胸一杯吸い込む。
俺達を乗せた車は、目的地までは遠回りであるそのルートをゆっくりと走って行った。
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