忘却葬送曲
Second Movement 7
突然狭い通路は終わりを迎え、広い円形のホールへと出た。
高い天井に届きそうなほど大きな本棚が壁を隙間無く覆い、床には乱雑に捨て置かれた大量の本がいくつも山を作っている。
人の気配を感じ取った俺は、すぐ後ろにいた近江を下がらせた。
「お前はここで待っていろ。・・・おい、中原透夜、いるのなら姿を現せ。もう逃げ場はないぞ」
キィーン・・・!
警察署で聞いたあの音がしてすぐ、手に持っていた拳銃が塵に変わる。
本の山の陰から、それをやった犯人が出て来た。
「ああ、いつかの警察官さんですか。・・・僕を捕まえるのは難しいと思いますよ、そんな丸腰では」
そう言った彼の顔は、以前見たときよりも少しやつれていた。髪や格好も指名手配から逃れるためか、随分様変わりしている。
「お前が政府の人間に無実の罪を着せられたことも、軍がその兵器を製造したことも、もう調べられて分かっている。誰の助けもなく、いつまでもそんな風に逃亡し続けることが無理なことぐらい、お前になら解るだろう。・・・いい加減、こんな意味のないことは止めろ」
「止めて、どうなるというんですか。一生檻に閉じ込められて、この世界を呪い生きるだけだ。俺は、自分がやりたいようにする。・・・死んでしまったって構わない、俺が俺らしく在り続けられれば、それでいい」
中原は以前と全く変わらない冷たい眼差しで、俺を見据えていた。
そのどうにもならない状況に、大きな変化を与えたのは彼だった。
「君は、この世界が嫌いなんだね・・・透夜君」
いつの間にかホールの隅から出て来ていた男が、少年に優しげな声をかける。
近江の姿を見た中原は、大きく動揺した。
「・・・真琴さん?・・・嘘だ、どうして・・・!」
この二人、知り合いだったのか?・・・なら近江は、本当はこいつに会うためにここまで来たのか。
俺が驚いて立ち尽くしている中、中原はふらふらとした足取りで、一歩一歩彼に近づいていく。
「あなたは、俺をかばって・・・あの時に」
その先を聞くことはなかった。
俺達が進んできた道とは反対側の通路から、大勢の人間が近づいて来る音が聞こえ、その足音に中原は正気を取り戻し、俺も身構えた。
暗い通路から飛び出してきた彼らは、真っ直ぐに少年に向けて重厚な銃を構える。
軍がこの一件に出て来たのか、・・・まずいことになった。あいつらは犯人を捕まえることはない、ただ殺すだけだ。
「軍事拠点連続襲撃犯、中原を確認。直ちにこれを攻撃し、所持している兵器を奪還する。関係のない民間人は速やかに退避せよ!」
俺は急いで近江の腕を掴まえ、ホールから脱出する。
「総員、・・・攻撃開始!」
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