忘却葬送曲
prelude 3
俺が一応国民として所属している、極東帝国というのは、近年発見された膨大な地下エネルギー資源を元手に、急速に繁栄した、軍事政権による国家だ。
ハリボテの大義名分を掲げた上での侵略戦争によって、周囲の国々から次々と利権を奪うことに成功し、益々その経済力、国際的な発言力を高めつつある。
そんな国の歴史の授業など、己の成功や勝利ばかりを誇張する、酷く傲慢なものであることは言うまでもない。
胸の中に溜まった不快感を抑えるため、俺は一人見晴らしの良い校舎の屋上に来て、朝買ったコンビニ弁当を食べた。
もうすぐ夏休みを迎える空は、嫌味なぐらいに真っ青だ。ジリジリと、強烈な日差しが俺の肌を焼いた。
転落防止用の金網の隙間から校庭を覗けば、既に食べ終わったのか、サッカーをしている数人の生徒の姿が見えた。
彼らの生き生きとしたその様子に、俺は舌打ちをしたくなるような苛立ちと、虚しさを覚えた。
俺は一生、あの輪の中に入ることができないだろう。
あんなふうになんの屈託も無く、この世界を生きるなんて、絶対的に無理な話だ。
彼らには俺のこの気持ちが理解できないだろうし、俺だって、彼らの希望に満ち溢れた心に共感することはできない。
そうするには、・・・俺はこの世界を憎み過ぎていた。
そんなにこの世界が嫌ならば、いっそこの校舎から飛び降りてしまえ、というふうには全く考えたことはない。
それだと俺が、この世界に敗北したと宣言するようなものだと、思うからだ。
生憎、自分の生に絶望するほど俺は無気力ではない。
憎しみ続けた先の人生に、何が待っているんだろうか。
もはや今では、俺の生きる原動力となってしまっているこの感情が、ある日忽然と消えてしまったら、
・・・その時、俺という存在は、この世界にいるだろうか。
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