忘却葬送曲
Second Movement 6
「もし、この世界から全ての兵器が消え去ったら、平和が訪れると思うか?」
前方に犯人が潜んでいないか確認して慎重に進みつつ、今度は俺の方が男に問いかけた。
後方からゆっくりと付いてくる彼は、少し考えてからそれに答える。
「・・・それはどうでしょう。人が戦うことを求める限り、また新しい武器を作り出すと思います」
「同感だ。どんな恐ろしい殺戮兵器だろうと、人間が使おうとしなければ機能しない。結局一番厄介なのは人の心なんだろうな。・・・やられたらやり返す、その繰り返しだ」
「・・・もしある日突然、その憎しみの連鎖が全て消え去ってしまったら、この世界はもっといい場所になるでしょうか」
「・・・どういう意味だ?」
俺は足を止め、男を振り返って見る。
「酷い戦いがあったことも、人種や宗教や国籍・・・それらから生まれた憎しみの記憶も、全て忘れ去ってしまったら、この世界はもっと幸せになれるでしょうか?」
それは、ただの謎掛けには聞こえなかった。
男の真剣な声での問いかけに、俺もまた真面目に考えて返事をした。
「どうなるかはわからない。・・・ただ、それは今とは別の世界だろう。積み重ねたもの全部、放り出して進んでいくということだからな」
「そうですね。・・・さあ、進みましょうか」
「・・・なあ、そう言えばお前、名前はなんて言うんだ?」
俺が聞くと、彼は人の良さそうな笑みを浮かべて答える。
「近江といいます。下の名前は真琴で、小さな図書館の司書をしています。改めてよろしくお願いしますね、永井さん」
「ああ、俺は永井智洋だ。・・・別に下の名前は覚えなくていい、よろしく」
俺達の会話はそこで終了し、あとはただひたすらに暗い通路を歩き続けた。
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