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忘却葬送曲
Second Movement 5

「俺の親父は、軍の人間だった。・・・唯一の家族であった俺を食わせて育てていくためだけに、毎日のようにきつい戦場で戦っていたんだ。もらった勲章とかは全部、押入れ深くに仕舞いこんで、自慢げに俺に見せたことは一度もなかった・・・そういう優しい人だった。
結局この世界から戦争がなくならないのは、そういうありふれた幸せを求める人間が在り続けるからだ。・・・この戦争や紛争だらけの世界は、俺や俺の親父のような、ごく普通の人間のエゴが生み出したものだ。そこに嫌いも好きもない」

歩き続けていた足を休めるために埃っぽい床に座り込んだ俺は、先程男が投げかけた質問の答えを言った。
それを隣に座り、静かに聞いていた彼が口を開く。

「そうですね、・・・長い人類の歴史の中で、戦いは何度も繰り返され、消えたことはない。・・・もしも自分が笑った分だけ、他の誰かが泣いているとしたら、心から喜ぶことができなくなりますね・・・飲みますか?」

「・・・いや、結構だ」

肩に背負っていたリュックサックから水筒を取り出した男は、ゆっくりとそれを飲み始めた。

本当にのんきな奴だな。俺が銃口を向けてもたじろぎもしなかったが、鈍いのか?

あの中原もそうだったが・・・この男とは180度違う、酷く冷たい目をしていたな。
あいつならこいつの質問にどう答えるだろう。まあ、決まりきったことか。

T島反政府組織壊滅戦には、俺の父親も参加していた。

彼の遺品の整理していた時に書斎の机の引き出しから古い日記を発見して、その日の記述を読んだことがあるが、・・・酷い内容だった。
震える手で書いたらしい汚い文字で、ひたすらに懺悔の言葉を書き連ねていた。

一体何がそこであったのだろう。親父は何を見てしまったんだろうか・・・もしくは、やってしまったのだろうか。
あの少年が、こんな地下深くのゴミ捨て場まで追い詰められた理由が、そこにあるはずだ。


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あきゅろす。
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