忘却葬送曲
Second Movement 1
優しい父親だった。
仕事で忙しい日々の貴重な休日は、いつも俺の手を引いて商店街に行き、俺が指差した駄菓子、本、おもちゃ、・・・何でもためらわずに買い与えた。
口数は少なくて無愛想な人だったけど、あの人のごわごわとした大きな手の温もりは、今でもしっかり覚えている。
そんな父の職業は、軍人だった。
俺の小さな手を握っていてくれたあの不格好な手は、毎日のように戦場で大勢の人の命を奪っていた。
少し大きくなってその事実を理解した俺は、父を避けるようになった。
それは本当にささやかな、俺だけによる反乱だった。
ある日、父は戦場で大怪我を負って家に帰ってきた。
俺は久しぶりに彼の、傷だらけの顔を真っ直ぐに見つめた。
父はやっぱり、昔と変わらない不器用な微笑みを、俺に向けていた。
ああ、この人はいつも酷い戦場を必死に生き延びて、この家へ帰ってきていたのだ。
俺が待つ場所に戻るために・・・それだけのために、数え切れないほどの回数、彼は重たい引き金を引き続けた。
本当に不器用で・・・優しい、父親だった。
忘却葬送曲〜Second movement〜
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