[携帯モード] [URL送信]

忘却葬送曲
prelude 2

コツコツコツ・・・

教師が黒板に文字を並べていく音が、静かな教室に規則的に響く。
俺はノートも取らず、ぼんやりとその様子を眺めていた。

書き終わったらしい教師はチョークを置き、生徒達の方へ振り返る。急いでペンを走らせる生徒達を見渡した彼は、ひとり顔を上げている俺を目聡く見つけた。

教師と視線が合ってしまった俺は少し身構える。

「中原、新暦345年の7月30日に起こったことを言ってみなさい」

「・・・はい」

俺は音を立てないよう椅子から慎重に立ち上がり、教科書を読むふりをしながら答えた。

「新暦345年7月30日、南海のT島において反政府組織の拠点があることを確認し、それに協力的であった住民を含め、政府制裁対象に認定。
空から攻撃を加え、組織関係者全員を殲滅させることに成功しました」

言い終えると教師は大きくひとつ頷き、着席を促す。俺は再び椅子に座った。

「よろしい。このT島空爆作戦により、我々の極東帝国は、非合法手段に訴える犯罪組織を壊滅させ、更なる安定的な平和を得ることになりました。・・・もうすぐチャイムが鳴りますね。今日はここまでにしましょう」

その教師の言葉に、生徒達は机の上にあったノートや筆記用具を仕舞い始める。間もなく、授業の終わりを知らせる機械的な音が校内に鳴り響いた。

昼食を食べるため、生徒達は明るく賑やかな声を交わしながら、こぞって教室から飛び出していった。

誰もいなくなった静かな教室に、俺だけがひとり席に座っている。
開いたままの教科書に載っている、一枚の写真を眺めていた。

―新暦345年7月30日、T島空爆作戦の様子―

随分離れた海上から撮影したものらしい。
赤く燃え上がる島が、暗闇の中に遠く、ぼんやりと浮かんでいる。

思わず俺は、そのページをくしゃくしゃに握りつぶしていた。

「・・・こんな写真で、何がわかるっているんだ・・・」

憎々しげなつぶやきだけが、穏やかな静寂に包まれた教室に、取り残される。

[*前へ][次へ#]

2/11ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!