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忘却葬送曲
First Movement 8

それから数日が経ったある日、俺は引き継ぎの準備に必要な資料を持ち帰り損ねていたことに気付き、誰もいない夕方の生徒会室へと来ていた。

しばらく誰も来なくて閉ざされていたその部屋には、蒸し暑い空気がこもっている。

俺は目当ての物を、大量にある書類から迷うことなく取り出し、鞄へと収めた。

きちんと整理された棚を見回した俺は、・・・ふいに、生徒会室で水野と交わした、何気ないやり取りを思い出した。



「新島って、本当にマメだよな。こんなに綺麗に整理整頓出来る奴を見たのは初めてだ」

「・・・水野が雑すぎるんだよ。内容ごとにまとめて、いつも元の場所へ返せば済むことだ」

「それが難しくて出来ないんだ、俺には」

棚から取り出した昨年度の資料をきっちり元の場所へ戻した俺に、水野が感心したような声をかける。
彼に褒められた俺は、平静を装いつつ、内心嬉しくて照れていた。

「お前の部屋も綺麗に整っているんだろうな・・・、なあ、今度新島の家に行ってもいいか?」

「・・・いいが、行ったところで何にも面白いものはないぞ。漫画もゲームも一切うちは禁止だからな」

「それでも俺は行ってみたいんだ。・・・お前のことを、俺はもっとよく知りたい」

そう言って微笑む彼の表情に、俺は一瞬で心を奪われた。

お互いに黙り込んでしまった生徒会室は、穏やかな静けさに満たされる。校庭で部活に励む、野球部の掛け声が聞こえた。

「結構ずっと前から気になっていたんだ、新島のこと。・・・お前、よく街の図書館で勉強しているだろう?あんな真剣な表情して机に向かっている奴は誰だろう、っていつも思っていた」

そっと俺の肩に手を乗せた彼は、俺の顔を真っ直ぐに見て、いつも俺が離れた場所から眺めていた、・・・あの幸せそうな笑顔を見せた。

「だから、お前とこうして話せるようになって、俺は本当に嬉しかったんだ。・・・俺を生徒会に誘ってくれて、ありがとう・・・宗太」


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あきゅろす。
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