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忘却葬送曲
First Movement 4

昼間と変わらず、蝉の声は五月蝿いほど鳴り続けている。

俺はすっかり乾いた喉を潤すため、途中にあった自動販売機でペットボトルのスポーツ飲料を買った。

俺はその場で開けて、すぐに飲み始める。
喉が潤うと、冷たいそれを火照った顔に当てた。泣いて腫れてしまった跡が取れるといいんだが。

そのまま立ち去ろうとした足を止め、もう一本、同じものを買う。
出てきた冷たいそれを、開封せずに鞄にしまい込んだ俺は、家の方向とは異なる長い坂道を登り始めた。




急な上り坂を登りきった俺は、夕方でも暑い気温のせいで汗だくで、息も絶え絶えに、目的の場所へと辿り着く。

お盆でもない広い墓地には誰もいなくて、献花や供え物も少ない。

その中で、誰かが定期的に来ているのだろう、活けたばかりの新鮮な菊の花や果物が置いてある墓へと、俺はゆっくりと歩み寄る。
先程坂の下で買ったスポーツ飲料を、そこへ供えた。

手も合わせずに、ぼんやりと花崗岩の墓石に刻まれた名前を見る。

結局、ここの下に在るのは、死んだあいつの骨だけだ。
彼という存在は、ここではない何処かへと向かったのだ。・・・俺をこの世界に残して。


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