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忘却葬送曲
First Movement 3

学校を出て藤堂と別れたあと、俺は借りていた本を返すために街の図書館へと来ていた。カウンターへと真っ直ぐ向かった俺は、知り合いの図書館員に話しかける。

「近江さん、こんにちは。これ、返却します」

「新島君、久しぶりだね。高校はもう夏休みかい?」

俺から数冊の本を受け取った彼は、人の良い笑みを浮かべて答えた。

「ええ、生徒会の仕事があったので、今日は登校しましたが・・・もう全部終わったので、当分は行かないつもりです」

「そうなんだ。お勤めご苦労様です、生徒会長さん。うちの図書館、ケチだから冷房が弱いんだけど、よかったら勉強でも読書でも好きに使っていってね。夏休みなのに利用者が少なくて暇なんだ」

「はい、そうさせていただきます」

近江さんのいるカウンターから離れ、俺は閑散とした館内を歩き始める。
子供向けの絵本や漫画は隣の別館にあるこの図書館は、雑誌や新聞を広げる大人や、ペンを動かし勉強をする学生しかいなくて本当に静かだ。

俺はいつもの定位置である、一番隅にある席にそっと腰掛けた。持っていた鞄の中から参考書やノートを取り出し、勉強に没頭し始める。



―・・・新島、また勉強か?本当に真面目だよな、お前は・・・―


突然耳を通り抜けた澄んだ声に、俺は弾かれたように顔を上げた。

俺の視線の先に、その暖かな声の持ち主はいなかった。・・・いるはずがなかった。

いつの間にか居眠りしていたのだろう。体中から出た嫌な汗で、制服のシャツが湿っぽく貼り付いて気持ちが悪い。

顔を流れる汗を拭おうとしたら、・・・自分の両方の目から、それが出ていることに気がついた。

泣くなんて、格好悪いな。ほとんど人がいない場所で良かった。

再び勉強に取り掛かろうという気力は、全く沸かなかった。
俺は机に出したものをさっさと片付けて、夕暮れの光に包まれる図書館から、足早に出て行った。


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