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忘却葬送曲
prelude 1

星が、見えない。

予報では今日、雲ひとつない絶好の観測日よりだったはず。

でも今は、黒い爆煙が空一面を覆っている。天まで届きそうなほど燃え上がる炎で、地上は嫌に明るい。

鳴り止まない爆撃音。その凄まじい音の切れ切れに、人々の叫び声が聞こえた。

―助けて、誰か!―
         
         ―嫌だ、死にたくない!―

―熱い、痛い・・・―
          
         ―かみさま・・・!―

目をつぶっても、耳を塞いでも、その光景、その声が、心の中に深く入り込んでくる。

―どうして、同じ人間なのに・・・!―
           
           ―・・・絶対に許さない・・・!―

―・・・殺してやる!―

己に降りかかった不幸を嘆く声が、この世界を糾弾する怨嗟の声が、あちこちから沸き起こった。
新しい悲劇の始まりを告げる、「憎悪」という人間の激しい感情。

人は幾度もこの連鎖を繰り返し、血を、涙を流しながら、悲劇の詰まった歴史を積み重ねてきた。

それでも、必死に足掻くのは、生きようとするのは、・・・そんな日々の中にも、心の底から笑える幸せな時間が、大切なものがあったから。

もしも、悲しみや憎しみがどうしようもないほど心に降り積もってしまって、君が笑えなくなったら。
自分の憎しみや過ちに、心が押しつぶされてしまいそうになったときは。

全部、忘れてしまえばいい。
俺がその全てを抱きしめて、遠い、絶対に誰にも手の届かない場所へ持っていくから。・・・だけど、その後は?

何も無い、まっさらなスタート地点に立った君は、また同じことを繰り返すのだろうか。

失ってしまったものの、その理由、その存在さえ忘れてしまって。

本当に、それでいいの?・・・君は、そこから前に進めるかい?

・・・まだ、その返事はない。

とりあえず今は、この場所で起きている悲劇のために、俺は悲しい涙を流していよう。

「・・・痛いよね、苦しいよね・・・、何もできなくて、ごめん・・・」

抱きしめた幼い子供は、母親の腕の中で眠りにつくかのように、そっと息を引き取った。



忘却葬送曲〜prelude〜

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あきゅろす。
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