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直感的学園生活
学園のテンペスト(上) 4

ヒー、ヒョー!

「えっ、この声は・・・」

「ふむ、トラツグミのような声ですね・・・」

キョロちゃんが居るはずの“非常口”の前まで来た僕らは、聞き慣れない声に首を傾げる。
いや、ヌエらしい声だけれど・・・でも、いつもの不思議な声じゃない。

吉田さんは懐中電灯で辺りを照らし、声の出処を探った。
僕も「ごはんだよー、シイタケだよー」と呼び掛けながら周囲に目を凝らす。

「・・・何か、嫌なものを感じます。少し調べてくるので、翔様はここで待っていてください」

吉田さんは真剣な表情でそう言い、非常口の方へ足を進めた。

その時だった。

ヒー、ヒョー!

「うわぁ、キョロちゃん!?」

暗がりから急に躍り出た森の主に、僕は驚いて声を上げた。
咄嗟に僕の前に立ち手裏剣を投げようとした吉田さんを制し、僕はキョロちゃんの様子を伺う。
何か様子がおかしい。興奮している・・・いや、慌てている?

ヒー、ヒョー!

何かを伝えようとしているのか、森の主は必死に鳴き続ける。

(まるで、何かの警告音のような・・・ここが危ないってこと?)

本能的に悟った危険に全身が粟立つ。
気が付けば僕は、大声を発していた。

「ここを急いで離れましょう、吉田さん!」

「わかりました。それでは失礼します、翔様!」

吉田さんは一言断りを入れてから、僕の体を軽々と持ち上げた。
えっと、こっ、これは・・・。

「何で横抱きなんですか・・・?」

「喋らないでください、舌を噛みますよ!」

吉田さんは腕の力を強めると、人間技ではない速さで暗い森の中を疾走し始める。
人間一人を抱えた状態でこのスピードって、さすが現代に生きる忍者だ・・・。
キョロちゃんは僕達のすぐ後を付いて来ていた。

そうしてから10秒程経ったとき。

ドオオォォン・・・ガラガラガラ・・・!

地響きがビリビリと伝わる大きな爆発と、それに続く何かが崩れ落ちる音。
足を止めた吉田さんは、轟音が聞こえた方向を見つめる。

「・・・間一髪でしたね、あの場に居たら巻き込まれていたでしょう。翔様、見事なご判断でした」

「いやいや、そんな・・・って、あの、その前に降ろしていただけますか?」

ようやくお姫様抱っこ状態が解除され、僕はほっと一息つく。
何故か残念そうにしている吉田さんから視線を外し、僕はキョロちゃんに近づいた。

「ありがとう、キョロちゃん。この事を知らせてくれたんだね、よしよし」

キシャークェクェクェ・・・!

いつも通りの鳴き声を発するキョロちゃんの頭を、僕はこわごわと手を伸ばして撫でる。
嬉しそうに喉を鳴らす姿は、不思議な可愛らしさがあった。

何故か羨ましそうにその様子を見ていた吉田さんが口を開く。

「どうやら何者かが、非常通路を爆破して塞いだようですね」

「そんな事をどうして・・・?」

非常シャッターが下ろされた際に、唯一校舎から出られる抜け道。それがあの非常通路だった。
それをわざわざ使えなくする理由は・・・?

「今の音はかなり大きかったですから、すぐに警備員も駆け付けるでしょう。翔様、とりあえず寮の方へ参りませんか。・・・爆破犯が近くに潜んで居るかもしれません、ここは危険です」

「そうですね・・・」

腑に落ちないものを感じつつ、歩き出そうとした・・・その時。

ウウウゥゥゥ・・・!!!

この学園に来てから初めて耳にする、激しいサイレンが鳴り響いた。



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