直感的学園生活 ホームグラウンドの歩き方 5 テイクツーの方は無事に始まり、小さな玄関に一家が勢揃いし、俺達を出迎えてくれた。 聡美さんは先程のごたごたを全く感じさせずに、明るい笑顔をこちらに向ける。 「お帰りなさい、早かったわね。あなたが晴樹君で、こちらが?」 「春樹様の付き人をしておりまして、名は吉田と申します! こっ、この度は翔様のご家族方にご厄介になり・・・(しどろもどろ)」 声を上擦らせながらしゃべる吉田を、晴樹は不思議そうに眺めた。 「・・・何でそんなに緊張しているんだ、吉田。お久しぶりです、聡美さん」 「久しぶり、本当に大きくなったのね。・・・こうして三人を並べると、翔の身長の低さが露呈するわ」 一直線に立っている俺達を見て彼女が漏らした感想に、翔は不機嫌そうに口を尖らす。 「・・・二人共一つ年上だから、仕方ないじゃん」 「それにしたってねー・・・ちょっとお父さん、お母さん、いい加減泣いてないで挨拶してよ」 お揃いの刺繍ハンカチを片手に、仲良く寄り添って涙をこぼしている両親を見て、聡美さんが呆れたように言った。 「うう・・・だってね、聡美さん・・・ようやくこの日が来たかと思うと、嬉しくて・・・ぐすん」 「泣いてなんかいねぇよ・・・これは、俺からほとばしる家族愛が具現化してんだ・・・ひっく」 「・・・明彦さん、美沙子さん」 静かな声でそう言い、晴樹が彼らに歩み寄る。 「この家に戻って来られて・・・俺は、心から嬉しいと思っています」 それは、今まで聞いた覚えが無いくらいに優しくて温かい、彼の声だった。 また新しい涙を溢れさせた夫婦は、満面の笑みを浮かべて返事をする。 「おおよ、俺だって無茶苦茶に嬉しいぜ・・・待たせやがって、ばかもん!」 「お帰りなさい、晴樹さん、知之さん。嬉しいわ、また会えて・・・」 この場の空気が、一度も二度も上がってしまったような気がする。 どの顔もバラ色になって、満ち足りた瞳を輝かせていた。 俺が、急に熱くなってきた目頭を抑えた・・・その時。 (うわっ、ええっ、・・・ぎゃー!) 玄関の扉のすぐ向こうから、誰かの大きな悲鳴が聞こえた。 「なっ、何だ・・・?」 突然の事に目を丸くした晴樹に、吉田君が不敵な笑みを浮かべて言う。 「ふっふっふ・・・坊ちゃん、早速私のトラップ「雪原落とし穴」に曲者がかかったようですよ。一分で作ったので小さめですが、動きを封じるには十分の深さがあります」 「すごいな、たった一分か・・・いやいや、よそ様の家にそんな物騒な物を作るな!」 晴樹が「色々な意味で非常識な忍者」の後頭部を叩く一方、俺と隣にいる翔は顔を見合わせた。 「・・・翔、誰が落ちたと思う?」 「・・・まあ、こういう物に巻き込まれる人といったら、一人しかいないような・・・」 [*前へ][次へ#] [戻る] |