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直感的学園生活
ノスタルジック・メイストーム 6

一度寮に戻って着替えてから、俺と翔は朝食を食べに学食へと向かった。
やはり林檎だけでは、育ち盛り男子の胃袋には足りない。・・・それに、打ち合わせたい事もあるしな。

食堂前は、朝食を食べに来た生徒達で賑わっている。
その彼らに、江戸時代の瓦版のごとく、校内新聞を配って回る真田新聞委員の姿があった。

「はいはい、号外、号外だよー!昨日の「倖田告白騒動」の事の顛末が書かれているよー!」

ああ、そう言えばそんな事もあったか・・・。
皆口を揃えて「真・魔王が降臨した・・・」と言って震えていたが、俺は血眼になって晴樹を探す面々の姿に圧倒された。
俺の告白(偽)が、それ程ショッキングだったのか・・・いや、深く考えるのは止そう。
世界には、知らない方が良い事が数多存在する。

「おお、倖田屋と駒井屋じゃねえか!もう体の具合は大丈夫なのか?」

「はい、もうすっかり。・・・それ、一枚もらってもいいですか?」

「おおよ。俺の自信作だ、しっかり読んでくれよ!」

彼から校内新聞をもらった翔は、その場で目を通し始める。
俺も隣からそれを覗き込んだ。


〈倖田氏と会長の大騒動!止めたのは不憫なヒーロー〉

「倖田知之(3−B)が東野生徒会長に告白し、会長はその返事もせずに逃亡中」
という衝撃的な放送が昨日流れ、大勢の生徒が殺気やら涙やらを垂れ流しつつ、ヘタレ会長を血眼になって探し回るという珍騒動が起こったが、事の真相が判明した。

倖田氏は、逃げ回る東野氏をどうにか確保するために、嘘の情報を流したのだ。
つまり、倖田氏が彼にご執心というのは、全く以て嘘偽りの話だったわけで、あれは誤報である。
全く、いつも通りお騒がせな人物だ。彼がいつか学園を崩壊させるという俗説は、あながち否定出来ない。

さて、事件のハイライトはここからだ。
第二音楽室の怪人こと、学園のラスボスこと、倖田親衛隊長の相沢氏は、あの放送を聞いて大激怒した。
彼を目撃した生徒達は「あれは人じゃない、化物だった・・・」と口を揃えて述べる。まさに、学園崩壊の危機。
暴走した相沢氏は会長を滅ぼさんとし、逃げる彼を追いかけ始める。
そしてその途中、運悪く恐怖の鬼ごっこに巻き込まれた、不幸な少年がいた。

彼の名は駒井翔(2−A)。知る人ぞ知るツッコミの達人にして、小市民代表。

会長と少年は、散々逃げ回った末に屋上へと辿り着き、そこには事件の黒幕である倖田氏が待っていた。
相沢氏の暴走は倖田氏によりどうにか収まり、東野氏は彼と相対した。「いい加減に返事をしてもらおうじゃないか」と詰め寄る倖田氏、「だが、断る」と後ずさる東野氏。

しつこく口論を続けた挙句、二人は拳を振り上げて戦いを始めた。
ちなみに彼らの争点は、「小学生の頃のタイムカプセルを開けるか、否か」という事だったらしい。
大喧嘩する程、恥ずかしい黒歴史がたっぷり詰まっているのか・・・「ぼくの将来の夢!」とか、「初恋ラブレター☆」とか・・・是非拝見して、ネタにしたいものだ。

実力、根性、阿呆さなどが拮抗している彼らの泥沼試合は、延々と続くかに思われた。
だがそれに終止符を打ったのは、意外な人物。巻き込まれた少年、駒井氏だ。

拳が飛び交う二人の間に飛び込む駒井氏、
繰り出されるクロスカウンター、
二つの拳が同時にクリティカルヒット!
不憫なヒーローは「燃え尽きたぜ・・・」と呟いて倒れた。何たる悲劇的結末。

駒井氏に駆け寄った二人は、涙を流しつつ、不毛なる戦いをした事を激しく後悔する。
「俺達は、なんて阿呆な事を・・・!」と涙目の会長、
「黒歴史タイムカプセルなんかどうでもいい、目を覚ましてくれ・・・!」と号泣する倖田氏。

こうして倖田告白騒動は、一人の少年を犠牲にして幕を閉じたのだった・・・。



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あきゅろす。
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