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直感的学園生活
思い出タイムカプセル(冬色) 6

風は強く吹いていない、それでも冷たい空気が肌を刺すように痛かった。

薄暗い林の中を、ぼくは膝まである雪をかき分けるようにして前に進む。
冬は太陽があっという間に沈んでしまう。
分厚い雲に覆われている灰色の空は、次第に暗くなり始めた。

時々彼の名前を呼んでみるけれど、返事はない。知之君はここにはいないようだ。

・・・もしかしたら今頃は、彼は家に帰っているのかもしれない。
そう思うと、急に全身から力が抜けた。

長時間雪の中を歩いていた体は、すっかり外気に体温を奪われ、疲れ切ってしまっている。
もうそれ以上は一歩も動けず、両足で立っていることもだるくなってしまい、ぼくはその場に座り込んでしまった。

強い眠気を急に感じ、重たくなってきた瞼を閉じかけた・・・その時。

「・・・翔、翔!」

不意に大きな声で名前を呼ばれ、ぼくは顔を勢いよく上げる。
必死な形相をした彼が、息を切らし、雪を押しのけるようにして、僕に向って来た。

ぼくの体を包み込むように抱きしめた彼は、責めるような声で言う。

「どうして・・・、どうしてこんな所にひとりで来た!死んだらどうするんだ・・・!」

ぼくを抱く彼の体は、酷く震えていた。
彼を安心させようと、出来るだけで明るい声でぼくは答える。

「知之君がここにいるんじゃないかと思って・・・、探しに来たんだ」

「・・・今日は家に真っ直ぐ帰った・・・お前が家を飛び出して行ったって聞いて、ここへ・・・」

「そっか、ぼくの早とちりだったね・・・よかった」

ほっとして微笑むぼくに、彼は抱きしめる力を強くする。

「やめてくれ、おれなんかのために・・・お前に何かあったら、どれだけ悲しむ人がいると思う・・・!」

ぼくは知之君から少し体を離し、真っ直ぐ彼の目を見て言った。

「君に何かあっても、みんなが悲しむよ。ぼくや、お父さんとお母さん、お姉ちゃん・・・みんなきっと、泣いてしまう」

「っ、・・・!」

ぼくの言った言葉に、彼が息を呑む音が聞こえる。
目を逸らした知之君は、悲しそうに、苦しそうに、顔を歪めていた。

「・・・おれ、は・・・」

何かに戸惑うような声が、彼の口からこぼれおちる。
ぼくはその先を、じっと黙って待った。

「・・・おれは、一人になりたかったんだ。おれのせいで誰かが傷ついたり、悲しんだり・・・それが、怖い。もう誰とも関わりたくない・・・おれのせいで、大切な人間が不幸になるのは、もう嫌なんだ・・・」

「・・・でもこのままじゃ、ぼくも不幸になるよ?」

「・・・え?」

驚いて目を見開いて彼に、ぼくは言葉を続ける。

「知之君がそんな一人で寂しそうにしていたら、ぼくも寂しくなるんだ。・・・これじゃ、ぼく達二人共不幸せになっちゃうね。君の不幸は、ぼくの不幸なんだ」

今度はぼくが、彼の雪まみれになった体を抱きしめた。
冷え切っているぼく達の体が、少しずつ温まっていく気がする。

「ほら、こんなに冷たくて寂しい場所でも、こうしていれば温かい。・・・でも、また離れてしまったら、この温かさを知る前よりもずっとずっと、寒く感じるんだ。
ぼくも知之君も、凍えてしまう・・・だから、ぼくは君の側から離れない。君をもう一人にしない」

穏やかに流れた沈黙の後、ぼくに答えるように、彼の腕がゆっくりと僕の背中に回る。
そうしている間にも振り続ける雪に、埋もれてしまいそうなぼく達は、しっかりとその小さな体を抱きしめ合っていた。

「そうだな・・・やっぱりひとりでは、寒すぎる・・・」

「うん。・・・知之君、家に帰ろう。早くしないと夕食の時間になるよ」

体をゆっくりと離した彼は、ぼくの顔をしっかりと見つめながら・・・微笑んでいた。
初めて見るその温かな笑顔に、思わずぼくは見とれてしまう。

寒さで赤くなった手を、彼はぼくに差し出した。

「ああ。・・・帰るか、翔」

手をしっかりと繋いで立ち上がった僕達は、家に向かって歩き始める。

依然として降り止まない雪は、ぼく達を白く染めては、ゆっくりと溶けて消えていく。

その冷たさも、長い帰り道も、知之君と繋いでいる手の温かさで全く気にならなかった。



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