直感的学園生活 思い出タイムカプセル(冬色) 4 知之君は驚くほど無表情で、無口だった。 声をかければ答えてくれるけど、彼とぼくの視線が交わることはない。 「お前には関わらないから、おれにも関わるな」という彼の気持ちが、言わずともしっかり伝わってきた。 ぼくと年の近い男の子、知之君がこの家に住むのを楽しみに待っていたぼくは、彼の拒絶にとてもがっかりしていた。 ・・・新しい友達が出来ると思っていたのに。 どこか気まずい空気が流れるぼく達の部屋に、知之君がいることは次第に少なくなった。 多分、僕が部屋に居づらそうにしているのを知之君は感じ取ったのだろう、小学校から真っ直ぐ家には帰らず、夕食の時間ぎりぎりになってから帰宅することが増えたのだ。 どこに行っていたのかと聞けば、「外を散歩していた」とだけ、彼はいつも答える。 長時間外にいたらしい彼のその顔や手は、寒さで真っ赤になっていた。 本当の知之君はきっと、とっても優しくて思いやりのある人間だ。 そうでなければこんなふうに無理して、ぼくに気を遣ったりする事は出来ない。 彼が他人を拒絶するのは、何か理由があるのだ。 ある日の夜、目が覚めてしまったぼくは、トイレに行こうと思い二段ベッドから降りた。 何気なく下の段のベッドを覗くと、そこに眠っているはずの彼がいないことに気がつく。 知之君もトイレに行ったのかな・・・、ぼくは部屋から出て階段をゆっくりと下った。 そして居間を通り過ぎようとした時、かすかに、すすり泣くような声を耳が捉える。 ぼくは足音を立てないよう、慎重にそこへ近づいていった。 青白い月明かりに照らされる、人影がひとつ。 中庭が見える縁側に、知之君がひとりうずくまっていた。 彼の頬を伝う涙に気が付いたぼくは、驚いて息を止める。 暖房がきいていないその場所は、少しの間いるだけで体が冷えきってしまうほど寒い。 彼はどのくらいの間、そこにいたのだろう。 かすれた声で、つぶやくように彼の口から言葉が発せられる。 「・・・ごめん、なさい・・・」 それは誰に、何にたいしての言葉だったのか、その時のぼくにはわからなかったけれど。 その表情が、その声が・・・あまりにも重く、悲しげで。 聞いてはいけないものを聞いてしまった気がして、ぼくは逃げるようにその場所から離れた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |