直感的学園生活 真夏の夜の大合唱 7 「もしもし、もしもし、そこのお布団を被っているあなた」 いつものように保険室の白いベッドの中にうずくまっていると、僕に声を掛けてくる存在に気が付いた。 僕は被っている布団を強く握り締め、更に縮こまる。 「・・・放っておいてよぉ・・・僕は貝なんだぁ。聞く耳なんて持っていないからぁ・・・」 「僕の声に返事をしたということは、耳を持っているということですし、声だって出せるということです。この紙を受け取ってください、とってもとってもいいことが書いてあります!」 紙を受け取らないと帰ってくれそうにない彼に、仕方なく僕は布団の中から手を伸ばしてそれをもらった。 薄暗い布団の中で、紙に書かれている文字を読む。 「・・・がっしょう?」 「はい、僕は合唱部の部長さんなのです。団員を集めるために、こうしてお時間がありそうな方に声を掛けて回っています。あなたが毎日保険室で貝殻ごっこをしているとお聞きし、勧誘をさせてもらいに来ました。こんなところに閉じこもっているなんて、限りある学園生活がもったいないですよ、僕と一緒に歌いましょう」 僕はもらった紙を布団の中から出して、また貝殻になった。 「・・・」 「黙り込んでもらっては、僕が大変困ります。お返事をもらえないでしょうか?」 「・・・」 「貝さん、外は怖いことばかりではありませんよ。素晴らしいこともまた、同じ数だけ存在するのです」 「・・・そんなこと言ってぇ、騙そうとしているんだぁ・・・不思議のアリスの牡蠣みたいに、最後はきっと食べられちゃうんだよぉ・・・」 「・・・貝さん、お布団お化けというものをご存知でしょうか」 突然声を低くして彼が言った言葉に、僕は体をこわばらせた。 「朝になってもお布団から出ない悪い子供を、ぱっくり布団ごと食べてしまう、恐ろしい怪物です・・・僕は、何度も見たことがあります」 被っていた布団を勢いよく放り上げた僕は、初めてその少年の顔を見た。 彼は「どっきり!」という看板を持って立っている。呆然としている僕に、彼が笑いながら言った。 「ごめんなさい、嘘でした!・・・あっ、でも合唱部の話は嘘ではありませんよ。改めて、これをもらってくださいませんか?」 騙されたことに顔を赤らめつつ、僕は少年からその紙を受け取っていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |