直感的学園生活
真夏の夜の大合唱 5
「もしもし、もしもし、そこの読書しているあなた」
しつこく私を呼びかける声に、読んでいた本から目を外すと、一枚の紙切れを差し出している少年が立っていた。
図書室の床に座り込んでいる私と目を合わせることに成功した彼は、嬉しそうにそれを手渡す。
「それを是非読んでください、とってもとっても重要なことが書かれています」
「・・・はあ、そうしますね」
とりあえずもらってしまった紙を眺めると、手書きのカラフルな文字でこう書かれていた。
―合唱部団員募集中!楽しく一緒に歌いませんか、第一音楽室で待っています―
「・・・合唱、ですか」
「はい、そうです!僕は今、合唱部を作るためにあちこちを回っています。あなたがこのようにひとり、毎日本に埋もれて読書三昧をしているとお聞きし、こうして勧誘しに来たのです。僕と一緒に歌いませんか?」
「・・・ごめんね、私は本の世界にしか興味が沸かないから。悪いけど他を当たってくれないかな、この本の続きを読みたいんだ」
「・・・わかりました。ならあなたがその本を読み終わるまで、僕はここで待っています」
そう言った彼は、私の隣に座りこんでしまった。・・・なんでこうなるかな、面倒くさい・・・。
「あのねえ、・・・もういいや、好きにしてなさい。私は読書を再開するからね」
「はい、読み終わったら声をかけてください。僕は少し寝ます」
それからすぐに、体育座りをしている彼は穏やかな寝息をたてて眠り始めてしまった。
なんて寝つきがいいんだ・・・私は気になって本が読めず、少し顔色の悪い少年の顔を覗き込む。
あまり体が丈夫ではないのだろうか。こんな無謀な勧誘活動なんかせず、大人しく休んでいればいいものを。
私は着ていた上着を、少年の丸まった背中に被せた。
少し身動きした彼は、夢を見ているのか、ぼそぼそと寝言をつぶやく。
「・・・おかーさん、みてみて、学園の制服だよ・・・」
楽しそうな声で紡がれたその言葉は、聞いていた私の顔を優しく微笑ませていた。
本を閉じて少し顔を上げれば、高い天井にある円形の天窓から、陽光が降り注いでいる。
今日は晴れていたのか・・・、たまには、外を散歩するのも悪くないかもしれない。
私は、眠っている少年の側にある紙に手を伸ばした。
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