lost memory, last train Hello, my little monster ! 7 今日も幸也さんは、アトリエに閉じこもって絵を描き始めた。 さて、ぼくは今日何をしよう。 きょろきょろと家を見回したぼくは、水滴の跡や、砂埃が付いた窓を見つける。 今日はここをピッカピカにしよう。そうしたら気分も、少しは晴れるかも。 ぼくは渇いた雑巾と、濡れた雑巾を交互に使い、リビングの窓をせっせと拭き始めた。 「真っ赤な太陽がー沈む砂漠にー、大きな怪獣がーのんびりー暮らしてたー」 お気に入りの曲を口ずさむ。 うん、歌うだけで、気持ちが楽しくなってきた。 「ある朝目覚めたらー遠くのキャラバンのー、鈴の音聞こえたよー思わず叫んだよー」 そしてここからが、この曲のさび、ぼくのお気に入りの歌詞。 さあ、たっぷり息を吸って、元気に歌おう。 「海がー・・・あっ、わわっ」 予想外の障害物につまずいて、ぼくはよろめく。 その原因となったのは、昨日一樹さんが置いていった巨大なダンボール箱だ。中身は、ぼくへのプレゼント。 服とか、本とか、お菓子とか・・・彼はこの家に来る度、たくさん色んな物を詰め込んだ箱を、ぼくに残して帰っていく。 ぼくが「こんなに沢山いらないよ」と言っても、彼はどこか祈るような目で、「お願いだから、受け取って」と微笑みながら、重くて、甘くて、温かいこれを、ぼくに差し出すのだ。 きっと、本当にあげたい人は、他に居たはずなのに。 ぼくなんかにあげちゃっていいのだろうか。 とにかく、ここに置きっぱなしにしては駄目だ、ぼくの部屋に持って行こう。 よいしょ。・・・ああ、なんてこれは重たい。 ふらふらと大きな荷物を抱えて、ぼくは自分の部屋に向かった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |