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lost memory, last train
terminal 4

分量をきっちり測って用意した材料を、レシピに書いてある順番どおりにボウルに入れて混ぜ合わせていく。
ダマのないなめらかな生地が出来上がった。

それに満足すると、俺はガスコンロに火を入れて、フライパンを温める。




俺はいつも、彼と手を繋いで歩いた。
人が沢山いる場所に行くことを恐れる幸也も、俺と手を繋いでいると安心していられるようで、嫌がっていた学校にも俺に手を引かれれば通えるようになった。
幸也のためにいつもそうしているのだと、俺は思っていた。

でも本当は、俺自身のためだったのだと、気がついた。
自分を安心させるために、また一人になってしまわないように、俺は、彼の手を握っていたんだ。

息を引き取った母親の、冷たいあの手に触れた瞬間。
俺は、この世界に一人残されてしまったかのような、酷い絶望感を味わった。

もう、俺の髪を優しく撫でた、あの人の温かい手がない。
この世界で一番守りたいと思っていた人を、永遠に失ってしまった。

俺は抜け殻になったかのように、ぼんやりと母親がいない世界に座り込んでいた。

・・・そんな俺を、幸也が、母さんによく似たその瞳で心配そうに見ていることに気がついた。

(そうか、僕にはまだ、彼がいる。彼を、守らないといけない)

俺は残っていた力を振り絞り、再び立ち上がった。
彼の存在が、彼を守ろうとする思いが、俺の体を支え続けた。

「・・・文人も幸也も、片翼の鳥だから、自由に飛ぶために、お互いが必要なんだよ」

伯父さんは俺たちの肖像画を描きながらそう言った。

俺と幸也は、彼が描く絵の中で、
片方の腕は、飛び立とうとするように広げ、
もう一方は、お互いの手をしっかりと握り合って、立っている。

幸也が飛ぶことを助け、見ることができたこの世界で、俺は沢山のものを手に入れた。



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あきゅろす。
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