lost memory, last train musei doukoku 8 俺は親とはぐれた小さな子供を背負い、急な山道を走った。胸が苦しい。息が上がる。 人々の悲鳴が、建物を飲み込む轟音が、迫ってくる。 前日の強い雨でぬかるんだ土に足滑らせそうになりながら、必死に山を登った。 転んだら終わりだとわかっていた。すぐ側まで、あれは近づいている。 ・・・駄目だ、間に合わない・・・! 「文人ー!」 ばか、なんで来たんだよ、幸也・・・! 「幸也!走れー!」 俺の方へ降りて行こうとする幸也に向かって、背負っていた子供を全力で放り投げる。 幸也は子供をどうにか無事に受け止めた。 一瞬だけ、彼が子供を抱えて必死に山を登り始めるのを見て、 ・・・そこで、俺の意識は轟音に包まれ、消えた。 瞼をゆっくり開けば、そこはまた、あの電車の中だった。 俺は衝撃的な記憶を引きずってしばらく放心したあと、向かい側の席に座っている幸也に気がついた。 彼の顔は酷く青ざめ、恐ろしく暗い。 「・・・ねえ、どうして、文人」 俺が、最後の瞬間に見た時と同じ、絶望に打ちのめされた、あの表情。 「どうして・・・死んでしまったの」 ああ、俺は・・・なんてことを、彼にしてしまったんだ、 「君がいなくなった世界じゃ、僕は生きていけないのに、どこへも行けないのに」 こんな顔、させたくはなかった・・・! 「ねえ、どうして・・・」 幸也の虚ろな目から、血のような黒い涙が流れ落ち、・・・その場所から音もなく彼が消える。 電車はいつの間にか止まっていた。 俺はおぼつかない足取りで電車から降り、果てしなく続く暗闇の中をひたすら歩き始めた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |