lost memory, last train
beautiful dreamer 3
「焼き鳥の塩味を二つお願いしまーす」
「はーい、200円になります」
今度は焼き鳥の屋台で立ち止まった。
もう日がほとんど沈み、あたりは暗くなり始めているが、一向に祭りが終わる気配はない。
・・・ああ、そうだった。この高校の学園祭は、夜8時までずっと続いて、最後にキャンプファイヤーをしてから、一日だけで閉幕するんだった。
変わった学園祭だと思った、・・・あの頃も。
焼き鳥に早速かじりついている先輩に、質問を続ける。
「なぜ、文人先輩の魂だけが、この場所にあるんですか。彼は、あの日に・・・、」
「あちち、・・・文人と同じように、最初この世界には沢山の魂のある人がいたらしい。
君と僕をここへ連れてきたあの蝶が、あの町で行くべき場所を見失い、彷徨っていた魂をこの世界へ連れてきたんだ。この世界はあの蝶の集合体が作ったものなんだよ」
「あの蝶が・・・」
「この世界に運ばれた魂は、この人の記憶で生み出された懐かしい町で暮らすうち、だんだん失っていた記憶を思い出していって、自分の行くべき場所を見つけ、最後の蝕の日に旅立っていく。
ここはそういう、彼岸へ無事に魂を運ぶための箱庭なんだよ」
一本目の焼き鳥を食べてしまった先輩は、パックから次の焼き鳥を取り出す。
「最後の蝕の日?」
「ここは現実と違って、時間が無限に流れていくわけじゃない。
・・・あの町がなくなるまでの30日間を、何度も繰り返すんだ、この世界は。
最後に訪れる日を、「蝕」と呼ぶ。その日までに行くべき場所を見つけた魂は旅立ち、まだ見つけられていない魂は、もう一度30日間を繰り返すことになる」
幸也先輩は2本目を食べ終えて、最後の一本にとりかかり始めた。
「じゃあ、文人先輩以外の魂は、既にほとんど旅立った、ということですか」
「うん、そういうこと。僕は文人以外に魂を持っている人に会ったことがない」
先輩は全て食べ終えた焼き鳥のパックを、ゴミ箱に捨てた。
「大体この世界のことについては話せたかな。じゃあ、どうして僕たちがこの世界へ招かれたのか、説明しないとね」
「・・・お願いします」
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