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lost memory, last train
dusk 1

鳴り続けるアラーム音。

ベッドで眠る僕は、そのけたたましい音に少しだけ身動きするものの、一向に起きようとはしない。

部屋のドアが音を立てて勢いよく開かれた。
眉間にしわを寄せた彼が、部屋に無造作に散らばる物を蹴散らしながらベッドに近づく。

「幸也・・・、いつまでそうしているつもりだ、起きろ!」

落ちていた文庫本をつかみ、ベッドで眠る僕の頭をそれで叩いた。部屋に痛そうな音が響く。
彼は鳴り続けていた時計を同じように叩いて止めた。

「痛い・・・、ああ、おはよう文人・・・」

「何が、おはようだ。早く着替えろ。新学期初日から遅刻するつもりか、お前は」

シャツに袖を通している間に、文人は床に転がっていた僕の鞄に、最低限必要な物を手早く入れていく。

「ごめんって。どうしても仕上げたい作品があって、夜遅くまで起きていたからさ」

「わかった、わかった。とにかく準備しろ、あと30秒で出るぞ」

「ええーっ、ちょっと待ってよ・・・」




第一章 dusk




Y町は小さな半島の一番端にある、山と海に挟まれている僅かな土地を利用してつくられた、小さな港町だ。
狭い坂道や階段が多く、建物はどれも急な斜面にしがみつくように建っている。

まともな商店街がある隣町へ行くための電車は一時間に一本あるかどうか。
生活をするのに非常に不便なこの町に、新しく移り住む人間は少ない。町の人口は減っていく一方だった。

僕らが通うY高等学校はなんの変哲もない、この町に唯一ある共学の高校だ。
しいて特徴言うとすれば、生徒数の減少により廃校なりかけであることか。
他の町からこの学校へ来る生徒は非常に少ない。
ほとんどがこの町の小学校と中学校を卒業して、そのまま高校へと進んだ生徒ばかりで、僕たちもその例外ではない。

文人も僕もこの町に生まれ育ち、今年で高校3年生になった。



 
二人乗りの自転車が、海沿いの広い道路を、潮風を切って走っていく。
朝日に照らされた海が、眩しいくらいに輝いていた。

「あと15分か・・・!まあ間に合うか・・・?」

自転車を懸命に漕ぐ文人の背中が、汗で少し湿っぽくて熱い。

「降ろしてよ。大丈夫、あとは歩くから。新学期の挨拶もあるでしょ、生徒会長」

「途中で降ろして、お前がおとなしく学校へ行くとは思えない」

「信じてよー」

「無理だ」

「・・・もう」

目線を彼の背中から外し、上に向ければ、秋にはまだ遠い、入道雲が浮かぶ青い空。

今日から僕たちの、2学期が始まる。


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