lost memory, last train darkness 8 あの事があってから、文人と顔を合わせるのが妙に怖くなっている自分がいた。 (僕を見るあの目は、) あの彼の姿を見た時に、僕という存在が、彼に向ける僕の感情が、大きく変容してしまったような感覚が・・・あった。 (幼い子が母親に、無償の愛情を求めるための、) またあの姿を見てしまったら、あの時の気持ちになってしまったら、いったい僕は彼に何をしてしまうんだろう。 いや、そんなまさか、・・・でも、 (彼をとても、愛おしく感じた。彼を抱きしめたい、そして、) 本当に、僕はどうして望んでしまったんだ、そんなこと・・・。 ・・・忘れてしまおう。こんな感情、あってはいけないのだから。 (自分の中に化物を飼ってしまったような・・・それとも僕自身が、化物なんだろうか) 僕と文人が中学校に上がってから、父さんはどこかだるそうで、休んでいることが多くなった。 調子が悪いのかと聞くと、いつも彼は「もう俺も年だからね」と、笑って返した。 文人はそんな彼を心配そうに見つめ、ますます家事に精を出す。 その頃にはもう家のことはほぼ文人がやるようになっていた。 一方僕は、本格的に絵を始めた。 父さんもつきっきりで僕を指導してくれたから、描く技術はどんどん向上していった。 自分の頭の中にあるイメージを形に出来ることが嬉しくて、夢中になった。 コンクールや展覧会に絵を出せば、賞をもらえるようにもなった。 ・・・僕が、心の中に飼っている化物は、おとなしく眠っているようだった。 文人とは元通り普通に接することができるようになったし、一緒にいられる時間がたっぷりあって、僕はとても幸せだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |