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lost memory, last train
darkness 5

文人は黒曜石のような双眸を、こちらにずっと向けている。
幼い頃の面影はほとんどなく、すっかり大人びたその顔は、写真で見た若い頃の父親のそれと、ひどく重なり合う。



それからしばらくして、文人は僕の家にやってきた。

家には時々、父さんの知り合いの大人がやってきて、幼い僕とも遊んでくれたけど、僕と同じ年頃の子が来るのはその日が初めてで、とても嬉しかったことをよく覚えている。

ただ、父さんは・・・文人を見て、ものすごく驚いたようだった。

彼の顔を見た瞬間、持っていたカップをひっくり返し、読んでいた本をずぶ濡れにしてしまった。
そんな慌てる父さんの姿を見たのは後にも先にもこの時だけで、そのことも印象的だったから、とても記憶に残っている。

文人と父さんの顔がよく似ていることに気がついたのは、それから3年ほど後のことだった。
その頃に、文人の背はぐっと伸び、体つきもしっかりして、急に大人っぽくなった。

父さんはそんな彼を見て「ますます俺に似てきたな、文人は」と、よくつぶやいた。
その横顔は、どこか嬉しそうで、・・・なぜか少し寂しげで。
文人を通して、どこか遠い場所を見ているようだった。

その頃には、僕のほうが文人の家に遊びに行くことも多くなった。
文人の母親は体が弱い人で、横になっていることが多かったけど、僕が来ると嬉しそうに、優しげな目を細め笑った。

彼女は料理がとても得意で、いつも僕たちにおやつを作ってくれた。
フライパンでケーキを焼く香ばしい匂いが漂ってくると、文人と僕は遊ぶことをやめて、台所にいる彼女のもとへ駆け寄った。

出来上がったケーキを夢中でほおばる僕たちを見つめる、彼女の温かい眼差しが忘れられない。



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