lost memory, last train darkness 3 「そこの椅子に座って。楽な姿勢でいいよ」 幸也に促され、クッションがついた古い木製の椅子に座る。 彼が準備をしている間にゆっくりと部屋を見渡してみた。 今は幸也のアトリエで、昔は彼の父親のアトリエだった小さな洋風の部屋。 黒い板張りの床はあちこちが油彩画の絵の具がこびりつき、色とりどりの汚れが残っている。 小さな曇りガラスの窓しかない室内はあまり明るくない。 部屋の隅には五枚の絵が、額縁に入れられないままの状態で壁に立てかけられている。 幸也の描く絵と異なる印象のそれらは、彼の父親の作品で、どれもこの町を描いた風景画だ。 「文人、こっちを真っ直ぐ見て」 スケッチブックを持つ幸也を見る。 いつものゆるい笑顔を浮かべた彼とは全く違った。 (白い、白い雪のような、) 恐ろしいほど無表情な彼の顔は、まるで人形のような無機質な美しさがある。 瞳だけが火のような引力のある光を宿して、じっと俺を見つめていた。 (やっぱり似ている、――に、) 最初に出会ったとき、とても驚き、そして見入ってしまったのを覚えている。 彼の髪や肌は新雪のように真っ白で、黒い髪と夏の日差しで黄金色になった肌の俺とは、まるで別の生き物で。 絵本で読んだ妖精が本当に現れたのかと思った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |