嫌な人 自分の名前を呼ばれてもの凄く驚いた。後ろを向くと、背の高いつなぎの男の人が立ってる。 「日本人で背が低くて髪が長い…うん、絶対アンタだ」 『へ?あ、の』 「アンタ、綾崎零だろ?」 『は、はい(呼び捨て?)』 「正一に頼まれた。アンタを迎えにいけって」 『!……正一って、入江正一って人にですか?』 「うん。」 『な、んだ……そうなんだ』 「?どうした」 『いや、迷ったかと思って…』 「……」 『腰、抜けちゃいました…はは』 ペタンと思わず、地面にしゃがみ込んでしまう。良かった…たどり着けないかと思った(うう、安心してまた泣きそう) 迎えにきたというその人は、不思議そうにしゃがみこんだ私をみていた。はっとして私はお礼を言う。 『あ、ありがとうございます見つけてもらって』 「迷ったって…」 『これ、おじさんの地図間違ってたんですよ、どう考えてもこのビルに矢印が行ってて』 「…うん、間違ってないじゃん」 『……え?』 「ここだよ、ウチ達が住んでるの」 『いやいや、だってここ』 「正一はここに住んでる、だからそのオジサンって人の地図は間違ってない」 『……ええっ!本当に?』 デカい声を出したら「ウルサい」と一喝された。す、すみません(いや、でも本当に?) 目の前で飄々と話したその人を見る。どうやら、嘘ではないようだ。 いや、本当に…こんなビルが入江さんのお家なんだな。入江さんはお金持ちか何かだろうか?(そりゃもう凄まじい財閥かなんかの) ぼーっとそんな事を考えてると、納得したか?と聞かれて、は、はいと吃りながら答える。ならよかった、とその人は笑った。(あ…よく見ればこの人日本人じゃない)(でも日本語話してる) 「…どうでもいいけど、さっきから見えてる。」 『え?』 「……」 『(無言?)あの』 「…スカートの中、パンツ」 『!!!』 「だから、いい加減立ちなよ。スタンドアップ」 『な、な、なんで早く…(言わないんですかアナタ…!)』 「ん?…だって話すのにイッパイイッパイだったみたいだし……あ、正一がアンタのこと待ってるんだった。早く行くぞ」 『え?あ、ちょっ』 私の恥ずかしさとか全部無視で、スタスタと歩き出す。な、なにこの人…(信じられないくらいマイペースなんだけど) スタスタと前を歩くその人は、足も早いし私は追いつけない。おまけに荷物も重いから(う、上手く歩けない) いかん、このままじゃこの短い距離で(やばい、またはぐれてしまう…) 『っ……早いよ、ちょっと待って』 「?どうした。足遅いな」 『足遅いなって、』 「あ、わかった」 『はい?』 「足短いからだろ?(真剣)」 『あ、あんた…!(気にしてることを)』 「……ったく、仕方ないな」 『え?……あ、』 「荷物は持つ。足は遅くは歩けないから、握って付いて来て」 『あ、の……』 「ん?…ウチのつなぎ、掴んでたら大丈夫だろ?」 『…あっ、はい』 「よし。じゃあ、行くぞ」 ぽん、という表現が似合いそうなほど優しい力で、その人は私の頭をなでた。な、何なんだこの人…(優しいのか何なのか)(悪い人…じゃないのか?) 「…?どうした」 『!あっ、いえ…』 大きいビル(らしい本当は入江さんのお家)の入り口に向かうべく、誰もいないビルの周りを歩いた。 未だに誰かわからない(でもきっと良い人だろう)その人に、歩きながらついて行く。 『(なんか調子狂うな)』 「……どうでもいいけど」 『?はい』 「いつもそうなのか?アンタは」 『へ…なにがですか?』 「ウチはよく分かんないけど、今時の若い人はそうじゃないと思うんだが」 『…若い、ひと?』 「うん。やめた方がいいんじゃないか。」 意味が分からなくてきょとんとする。すると目的の入り口についたのか、「連れてきたぞ正一」なんて待ってた人に話しかけた。あ、やっと着いたんだ(入江さんにも会えた…!) でも入江さんに駆け寄ろうとした瞬間、隣の人の声に動きが止まった。 プッと笑いながら、隣のつなぎの男はこう言う。 「まあ、アンタには似合いか……色気とかなさそうだし」 『…え?』 「ちょうどいいのかもしれないな(うんうん)」 『?なに言って』 「だーからパンツ。 アンタうさぎ柄履いてるだろ?」 一瞬いきなりすぎて理解が出来なかった。ただ思ったのが、 『み…見たんですか?!』 「違う。見えたんだ」 『ひどい!へんたい!』 「?大丈夫。アンタにあんまり興味ないし」 『…!!!(真面目に言いやがって)』 前言撤回。きっとこの人は 良い人じゃない。 unpleasant (まさかこんな人を、わたしが) [←][→] |