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マジでヤブだよお医者さん



「―――ッ!」
『ちょっと!何やってんだい、良守!
 ――ほら、後ろにも一匹、来たよ!』
「っるせ、分かってるよ!

 ―――結っ!」



――――……‥・

妖も寝静まる、明け方の校舎。
真冬だというのに、ぼろ布のようになった法衣を脱ぎどっかりと校庭に腰を下ろした彼は、弱冠15才ながら、有り余る力と才能に(敢えて挙げるとすれば、『烏森の愛情』、にすら)恵まれた少年。
名を墨村良守、代々続く此所烏森の守護を担う、墨村家の正当後継者だった。


『まあ呆れた、まァたあんたはそんな大きな傷を拵えちゃって!』
「なんだよ、……別にいーだろ結果何とかなったんだし!」
『そう云う問題じゃあないでしょうに、
 …全く、どうなっても知らないよ、アタシは。』
「……どう、って、

 なん………だよ?」


ぞくり。
にやりとした妖犬に、身に覚えのある『嫌な予感』を感じ取り、良守の背筋を寒気が走る。

良守はまだ血の滴る背中の傷をそろりと確かめて、その亀裂の深さにぎょっとした。
(やべ、これはやりすぎ、かも)

傷を見た時音に急かされて、後始末もそこそこに帰路に就く。
血塗れの法衣を小脇に抱え、ふらふらとした足取りで。




マジでヤブだよ、
お医者さん





音を立てないよう、そろりと玄関の戸を開ける。
真冬の深夜、寝静まる家、血塗れた背中、裸の上半身。
寒すぎる状況に良守は苦笑した。


(包帯巻きゃあ何とかなんだろ、)
早く手当てして、布団にくるまりたい。
良守はがさがさと、手荒に救急箱を漁った。

と、


―――するり。


突然視界に舞い降りた、白の帯。
「あ、あった。」
良守はそれを掴み―――


(いや、有り得ない。)

がばり、突如現われた包帯の上端へと、顔を上げた。



「此れをお探しかな、患者さん。」
「……深夜にどーも、
 お疲れ様ですこの変態。」


見上げるとそこには、良守の『嫌な予感』の的中を示す男の姿があった。

それも、闇に溶け込む普段の姿とは真逆の、薄暗い月明りでさえ明るく浮かぶ、
純白の布地に身を包んだ、その人が。





あきゅろす。
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