シガツのバカ
今日はその、あれだ。
嘘をついても、いい日だ。
シガツのバカ
「墨村ぁ、もう終礼終わったぜ?」
「……ふへ…っ?」
我ながら阿呆みたいな声が出るものだと思った。
だってさっき、…さっきだぜ。
――今日は、本当は春休みだけどトクベツヘンセイ授業…とかで3日くらい連続で授業あって、…なんでそんなことやるんだ、って本当に面倒だったけど。
まあそれで、1時間目終わったけど次は数学だから、いつもどおり枕に突っ伏したんだよ。そう、10分くらい前だよ、いやそうでもないか。30分前くらいかな。いやどっちにしろ昼休み過ぎて寝てるわけねえじゃん。俺健全な中学生だから腹減るし、流石に起きるだろ。
…いや、確かでも昨日――否、【今朝】は、やたらすばしこい妖で手間取ったしおまけに小さいから照準合わないしであちこち壊しちゃっ……て、時音も呆れて途中で帰ってまあ、俺ほぼ徹夜で暴れたようなもんだしなあ。
そりゃ……寝れるよな、多分、終礼まで。
じゃあ、つまり俺、
「………うそ、だろ」
「うんウソ。」
「………え、
…………え?」
…ぎゃあはははは!
良守を深い深い眠りからたたき起こした友人は、それはそれは大袈裟に身体を反らし、良守の目前で腹を抱えた。
あははうっそだぁ、こいつまじで引っ掛かったよ、おい墨村お前まじで寝過ぎだって、つーかお前が昼休みをスルーするわけねえじゃん。
ぎゃはははもう笑えねー!!顔青いぜ墨村、あはははは!
ひとしきり盛大な笑い声を降らせた後、まだあんぐりと口を開いたままの良守の肩に、ぽんと手を置いた。
「あー、笑った。一生分ぐらい笑った。」
「………てめー…殺っ
「わーーまてまて墨村、お前今日何日だよ、ほら黒板見ろよ、
今日は何の日ー?」
「…4月1日?」
「で?」
「……………」
「………と、ゆーわけでしたー★
あ、予鈴鳴ったな。じゃ!これに懲りたら次の授業は起きとけよ、
…じゃないと終礼過ぎ、
――っわああ冗談だって!
ちょっ…角はやめろ、
辞書のカドは!」
どうやらあれだ、
今日はエイプリル・フールとかいう馬鹿げた日だったらしい。
(嘘吐いて良い日って意味わかんねーよ、なんだそれ誰が決めたんだ。)
ああもう、酷く寝覚めが悪い。
屋上で寝なおすか。
しかし先生も鬼だよな、
こんな天気の良い、しかも春休みど真ん中に授業、だなんて。アリなの?春休みの意味まるでねぇじゃん。
うららかな日差しの中、良守は屋上にごろりと横になる。
……大体迷惑な話だよ、嘘吐いていいなんてさ。本当の事言うの大変じゃん。例えばだよ、4月1日に「この書類明日までに仕上げといて」って言われても「エイプリル・フールだったから嘘だと思ってました」って言えば解決しちゃうのかよ。いや無理だろ。だから何だ、つまり本当の事言いたかったら嘘吐かなきゃだめなんだな、「この書類明日までに仕上げちゃだめだよ」とかか。意味わかるかよそんなの。大体欧米文化だろエイプリル・フールなんて。日本には《嘘つきは泥棒の始まり》なんて、素敵なことばがあるじゃん。なんだよ要するに欧米人皆盗人かよ。
くそ、眠くて頭がこんがらがってる。
ちくしょうめ!
ブツブツと心の内で不満を洩らしてからややもせず、良守は、ことりと深い眠りに落ちた。
(エイプリル・フール、か…)
――――……‥・
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