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01. 突然、視界に飛び込んで来た君

「お、ザンザス!!」

 ドアを開けたザンザスは、耳に入った声が自分の名を呼び終わる前にドアを閉め直した。
 今、突然、視界に飛び込んできたあの姿。
 年下の(それもだいぶ年下の)、更に言うなれば同性の、色々公にできない恋人のように見えたのだが。
 だがしかしここはイタリアであって、あの少年は日本に住んでいるのであって。
 ボンゴレリング争奪戦後、9代目と沢田家光の話し合いにより、今現在軟禁という処遇を受けている状態の自分がいるこの建物には、そもそも滅多なことで他人が入ることはできないでいるし。
 それにしてもリアルな幻覚だ白昼夢だ、そんなにアレに会いたいのか自分。
 寝起きからそれほど経っていなかったため少々鈍い働きをしている頭でグルグル考えていれば、いまだ掴んだままだったドアノブが反対側からガチャガチャ動かされた。
 反射的に押さえてしまうと、ドンドンとドアが叩かれる。

「こらザンザス! 人の顔を見てドアを閉めるとは何事だ! 極限失礼ではないか!! ここを開けろ!!」

 ドアを挟んだ向こう側から聞こえてくるその声も、聞きなれたあの少年のもののようで。
 ドアを抑えたまま呆然としていると、

「開けろ、開けねば極限太陽で打ち壊すぞ!!」

 となんだか物騒なことを言い出したので、また反射的にドアを開けた。
 突然開いたドアに反応しきれなかったのだろう、ドアを叩く拳を握ったままの体勢で転がり出てくるのを、これまた反射的に受け止める。

「うわあっ……と、突然開けるな馬鹿者!」

 先程とは矛盾した言葉をぶつけながら睨みあげてくるのは、ややタレ気味の大きな鳶色の瞳。白くてふわふわしたスポーツ刈りの髪と額の傷、鼻の絆創膏が特徴的な少年。

「……了平?」
「うむ! 久しぶりだな!」

 名を呼べば嬉しげに笑って抱きついてくる。思わず抱き返してしまうが、疑問に眉根が寄るのは止められない。
 なぜ日本にいるはずの恋人が、ここにいるのか。

「てめえ、何してる。」
「沢田の父上がお年玉としてどこへでも遊びに行かせてくれると言うのでな、『ザンザスに会いたい』と言ったら、連れてきてくれたのだ!!」

 他のメンツもいろいろ聞いてもらっているぞ! と嬉々として話し続ける了平から目を上げて、ドアの向こうの室内を見る。
 そこには沢田家光がにやにやしながら立っていた。

「いやあ、若いってのはいいな〜。見せつけてくれちゃってまあ。」
「……どういうことだ。」
「だから言ってんだろ? お年玉だよ、お年玉。」
「……なに企んでやがる。」

 油断なく目を細めるようにして問いかけるザンザスに、家光の顔に苦笑が浮かぶ。

「安心しろ、本当にただの“お年玉”だ。……しばらく殺伐とした日々が続いてたから、守護者連中に休息をやりたいと9代目と話をしてな。それぞれどこに行きたいか聞いてやったんだよ。で、笹川は迷わずおまえの居る場所を選んだってわけだ。」

 ちなみに家光の言によれば、沢田綱吉と獄寺隼人と山本武とランボは、他にも友人などを伴って一緒にマフィアランドに向かったらしい。
 クローム髑髏は彼女の仲間たちと温泉街へ、雲雀恭也は並盛中学を暫く独占するということだ。
 いまだ疑るような視線のまま、ザンザスは了平を見降ろす。

「……てめえ、学校は。」
「今は冬休みなのだ。7日からまたはじまるぞ!」
「……いつまでこっちにいるんだ。」
「5日の飛行機で発つ。日本に着くのは6日だな!」
「時差ボケひでえだろう、それは……。」
「なに極限心配はいらん! 気合いでなんとかなる!」

 なるべく長くこっちにいたかったからな、と力説されれば返しようがない。
 内心困惑し素直にこの状況を喜べないでいたザンザスは、眉根を寄せたまま考え込む。
 その様子に、了平の顔からも笑顔が消え、心配そうな顔になった。

「迷惑だったか?」
「いや……。」

 とりあえず否定をし、さてなんと説明したものかと悩めば、その沈黙をどう解釈したのか、了平は少しひそめた声になる。

「その、忙しいなら邪魔はせんぞ。俺としてはこうして顔を見られたし……沢田の父上のほうに世話になることもできるそうだからな。」

 落ち着いた口調で話すその口元には笑み。
 だがしかし、その鳶色の瞳が少しばかり揺れたのに、ザンザスは気がついてしまった。

「……邪魔でも迷惑でもねえ。居ろ。」

 慰めるとか、宥めるとか、機嫌をとるとか。
 そうした行動をとったことなどほとんどないので、どうしたらいいのか正直わからないけれど。
 それでもこの真っ直ぐで明るい子供に影など差させたくないとは思う。
 だからその手をとって、頬にキスを落とし、

「Benvenuto.」

 精一杯の歓迎を表した。
 驚いたように目を見開いた了平の頬に朱がのぼる。
 けれどすぐにまた、太陽のようにキラキラした笑顔を零したので、ザンザスはほっとした。



 こうして、5日間の小さな逢瀬がはじまった。



End.





ツナたちの行く先(マフィアランド)を決めたのはきっとリボーン。
クロームちゃんたちは、たまには温泉で贅沢。
雲雀様は冬休みを並中で満喫。



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