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飛べない鳥
弱点






「仁…いつの間に子どもなんて…!」
「あたしというものがありながらどこの女と…!」




小さな女の子と手を繋ぐ仁。
光利と俺はわざとらしく仁を指差し内心爆笑しながらその様子をネタにしてみる。
だが、どうやら子どもが苦手らしい仁からは何のツッコミもなくただ短い一言。




「た、たすけて…」







とりあえず話を聞いてみたところ、迷子の女の子拾ったとのことらしい。
だが、服装・顔立ち・オーラ・この学園の迷子と言うことを考えるとどこかのお嬢様であることは容易に想像できる。
そしてその少女は地毛なのかなんなのか、クルクルした綺麗なブロンドヘアにピンクのヒラヒラした服。持ち物は黒いななめ掛けのカバンのみ。
いったいどこのお嬢様なのやら。

とりあえず少女の高さに合わせてしゃがんで笑顔で話し掛けてみるとしよう。



「おじょーちゃん、お名前は?」
「あんた男でしょう!先に名乗りなさいよ!」
「「…」」




なるほど。仁、確かにこれは俺でも嫌だ。ガキは嫌いだが女の子には優しく。堪えろ俺!
光利はと言うと後ろで爆笑だ。




「ごめんごめん、俺は飛鳥。よろしくな。」
「私はくるみ!初等部3年よ!」
「くるみちゃんかー、ひとり?誰か一緒じゃないの?」
「お兄さまを探していたのに気付いたらみんないなくなったの!そしたらそこに」
「俺がおってん。」
「だから捕まえて案内してもらっているの!」
「ふーん。で、お兄様ってのは誰のことなんだ?あ、あたしは光利だ。よろしくな!」
「ひかり…もしかしていずみたにの?」
「お、よく知ってるな〜。その通りだ!」
「ひかりなら絶対に知っているわ!お兄さまのところに連れていって!」




突然仁の手を振り払い、今度は光利にしがみついていった。
慌てながらも受け止め、抱っこするあたりこいつは子ども好きだな。
仁はというとやっと解放されたことに安心し、こっそり溜息を吐いていた。うんお疲れ。




「どうすっかな…お兄様、だけじゃ手掛かり少ないしなー。」
「くるみも寂しいだろ、なー?」
「こういうときは理衣の出番やろ。俺連絡するわ!」
「じんもお兄さまのお友達だったの!?」
「「へ?」」




…仁の今の言葉に反応したということは。
ま・さ・か!




「りいお兄さまに会いに来たの!」




やっぱりかー!!
と、3人の心の声がシンクロしたのは気のせいではないはずだ。






そして宮殿近くまでくるみちゃんを連れてきたまではよかったが、ここに部外者を入れてもいいものなのか?と、悩みながら歩いていると。




「あらあら今日は小さなお客様ですか?」
「メイドさん!理衣見てない?」
「理衣様でしたらお部屋にいらっしゃいますわ。」
「そっかー…」
「とりあえず客間にご案内いたしますわね、お嬢様♪」
「客間?」
「あれ、お前知らないのか?宮殿の1階の一番手前の部屋だけは部外者も入っていいんだぞ!許可はいるけどな!」
「そういやせやったな〜!」
「もっと早く言ってくれ…まあ、くるみちゃんをそこに案内したげて?俺は理衣連れてくるからさ。」
「俺もついてく…!」
「じんとひかりはこっちよ!あすか!早くお兄さま連れてきてね!」




…なんとも複雑な心境なのは俺だけだろうか。
子どもが苦手な仁にはなついてるのに、ちびっこにも紳士な俺は…?
よし、株を上げるためにも早く理衣を連れてくるかな。

小さな溜息を落としてから一段飛ばしで階段を駆け上がる。




コンコン




「理衣ー入るぞー!」
「あぁ。」




扉を開けるとそこには颯人さんも一緒で。
理衣が眼鏡を掛けているところを見ると、仕事中だったらしい。




「あー…邪魔して悪いんだけどさ、理衣にお客さん来てるよ。」
「誰だ。」
「行ってからのお楽しみ〜♪」
「…」
「ここは俺が引き継ぐから、ほら理衣行ってきなよ。」
「さっすが颯人さん!話がわかるな〜!」




不満そうに小さな溜息を吐くと、渋々と言うように眼鏡を外しソファーから立ち上がる。
よし、千暁の時みたいに逃げられちゃ堪ったもんじゃないからな。
くるみちゃんは、確かに生意気だがまだ小学生だ。
きっと千暁以上に寂しいはず。

すると廊下を歩きながら理衣は口を開いた。




「アポなしで来る客とは失礼なやつだな、一体どこのどいつだ。」
「会えばわかるから、な!」




ほらほらと背中を押し、客間の前に立たせる。
すると絶妙なタイミングで中からメイドさんが扉を開けてくれた。




「お兄さま!!!」
「く、胡桃…!」
「くるみ、ずっとお会いしたくって来てしまいました!お兄さま!」




光利の膝から飛び降り、現れた大好きな兄の元へ目をキラキラさせながら飛び込む少女の笑顔は純真無垢、とても可愛らしかった。
理衣はというといつになく動揺し、言葉にもならない様子。なんと珍しい!




「な?会ったらわかるだろ。」
「…胡桃、久しぶりだな。」
「お兄さま!おかわりありませんか!くるみは見ての通り元気ですわ!」
「そうか、ちゃんといい子にしているか。」
「はい!…あ、でも…」
「どうした。」




理衣は急にシュンとしおらしくなった胡桃ちゃんの頭をポンポンと撫で、そのまま抱えあげた。




「今日、お母さまにもお父さまにもここに来ることはナイショにしてしまいました…くるみいい子じゃない…」
「そんなことはない。会いたかったのだろう。わざわざ来てくれて嬉しいぞ。」
「本当に…?」
「あぁ。」




その瞬間のぱあっと明るくなった表情は、本当に子どもらしい笑顔で。
本当に理衣に会いたかったんだろうと、理衣が大好きなんだろうと思えた。






「あすか!お兄さまを連れてきてくれてありがとう!」
「いえいえ。」
「じん!ひかり!あなたたちもありがとう!」
「会えてよかったなあ。」
「胡桃!今度はあたしに会いに来いよ!んで、いっぱい遊ぼうな!」
「うんっ!」




理衣との再会の後、胡桃ちゃん専属の執事がお迎えに来た。
短い時間だったが少しでも理衣に会えたことで満足したらしく駄々をこねることもなく、大人しく帰ってくれて。
むしろ理衣の方が寂しそうに見えたのは気のせいか?

胡桃ちゃんを乗せた車が見えなくなると、理衣は何も言わずに階段へと向かう。
思わず俺達はニヤニヤしながら引き留めてしまった。




「いやー、千暁にはあんななのに妹には優しいんだもんなー驚きだよなー!なあ、仁?」
「ほんまにな!あんな動揺した理衣なんかそう滅多に見れんて!なあ光利?」
「まあ、ちょっと生意気だけどあんなに可愛きゃさすがの理衣もベタ惚れだよなー!なあ理衣!」
「…お前たち、少し黙っていろ。」
「「あはは!照れてんのかー!おもしれー!!」」
「…」




本当に照れているらしく、しばらく足を止めただけで振り返ることなく、また階段を上りはじめる。
生意気なガキは嫌いだけどたまにはおもしろいかもな。

…あくまでたまには、だけどな。








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あきゅろす。
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