飛べない鳥 やっぱり女の子? 体育祭の準備も本格的になり、至るところに当日使われるであろう道具たちが並び出した。 先日の書類も問題なく提出を完了させ、あとは当日を慌ただしく過ごすくらいだろうか。 「あっちー…」 「やっぱ外は、しゃーないな。」 「暑さはしょうがないだろ!働け働け!」 「「はいはーい。」」 「仁はこれの使用許可取ってこい!」 「なんで俺!?」 「つべこべ言わずとっとと行く!」 「はい!すいませーん!」 と、疾風のごとく走り去った。 全く、このクソ暑い中よくやるよ。 「光利、これは体育館?」 「あぁ。んー、ついでに体育館の方終わらせるか。」 「あっちのが涼しいしな♪」 「それもそうだな。よし、行くぞ!」 それにしても何故こんな力仕事を自分たちでやるのだろうか。 こいつらなら家のお手伝いさんたちにでもやらせた方が早いんじゃないだろうか。 この質問にはさっくりと光利が答えてくれた。 「は?そんなもん、自分たちでやるから楽しく、達成感があるんだろ!」 「なるほど。」 体育館に着いた俺たちはとりあえず休憩を挟んでから活動することにした。 「あーあ、あと2日か…準備ってもっと余裕持ってやるもんじゃねぇの?」 「…そのダラケが桐生会の特徴だろ?」 「確かにそうかもな。」 仁と理衣の人柄だ、とニカッと笑う光利。 ほんとこいつは気取らず飾らないやつだなあ。 「なあ光利。最近仁とはどんな感じ?」 「な、急になんだよ!」 「まあまあ照れんなって〜、で?」 「別に普通だっ!」 「え〜ラブラブイチャついたりしないの?」 「ラブ…イチャつ…!」 あらあら、このカップルは揃いも揃ってそういうの疎いのか。 照れちゃって、珍しく可愛く見える。 「仁…そういうの苦手だし、その…」 「お前らってもうすぐ5ヶ月だろ?」 「あぁ。体育祭の日に。」 「まさかとは思うけどキスのひとつやふたつくらいは…」 「ない。」 「マジですか?」 「マジにない。」 お、奥手にもほどがあるだろが!! 光利も光利だ! 押し倒してまで付き合ったのにそこからはいいのか… 「いっつも何してんの?」 「ゲームしたりー、今後のこと話し合ったり。あ、桐生会のな。」 「あ、そ。」 「だ、だって!あいつ!」 「知ってる。あいつの恋愛話なんて記憶にねーもん。」 あいつはあいつで壁があるんだろうな。 もしかしたら本当に勢いだけで付き合って、そのあとがどうしたらいいのかわからないのかもしれない。 バカだからな、仁は。光利もか。 「はあ…これ、あっちに設置してこい。」 「はいはい。」 配線を受け取り、ひとり広い広い体育館の隅っこへと移動した。 ステージに腰掛けた光利は少し落ち込んでいるように見えた。 …あれ、もしかして傷抉っちゃった? 配線を終え、ステージ上に戻ると光利には笑顔が戻っていた。 たった5分の間に何が… と、色々な委員会のやつらが準備に勤しむ中、ボールの弾む音が聞こえた。 誰かバスケでもやってんのか? 「きゃーっ!仁くんかっこいいー!」 「ちっちゃいけどバスケ上手いよなー。確かにかっこいい…もんな。」 「今ちっちゃいけどってゆうたん誰や!俺ちっちゃないわ!」 …お前か。 男女共に仁の動きを褒め称えていた。確かに巧い。 キュッキュと鳴るシューズの音が心地良い。 「あいつ、バスケ巧いだろ?」 「あぁ。そんな本気でやってたんだな。」 「チビのくせにすげーんだ。あたしはそれを見て…」 「なんだコイツ、おもしろいって思ったのか。なるほど。」 「…まだ言ってない。」 「ふーん。でも間違ってないだろ?」 光利の視線は楽しそうにボールと戯れる仁を捉え続けた。 その優しい瞳からは普段の男らしさは感じられず、紛れもなく女の子…乙女だった。 「まあ、お前らはお前らのペースでいいんじゃない?」 「そう…だな。よし!」 急に立ち上がった光利は軽く屈伸をし、そのまま仁の元へ駆けていった。 「仁!1on1だ!」 「手加減せーへんからな!」 「上等だ!さあ来い!」 楽しそうだしいっか。 つーか、光利じゃなくて仁に聞けって話だよな。 なんか男同士のようなつもりで色々聞いちゃったよ。うん。ごめんな、光利。 → *←→# [戻る] |