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弐の風


吉原の一角にある遊郭こ屋根上に1人佇む女がいた
眼下にある街を見下ろしながら何かを探すように目を動かしている
そして、ある一点を見ると、一瞬眼光を光らせた


「…見つけた」
『ヘェ、何を見つけたんだ?』


突然となりから聞こえた声に驚き、飛び退ってクナイを構えると、肩膝を立てて座っていた人物が立ち上がった


『おいおい、随分な挨拶じゃねェかーー月詠』
「…ぬしだったか、琥乃玻」


その人物が琥乃玻だと知ると、月詠は安心してクナイをおろし隣へと戻った


「何故ぬしがここにいる?また女か」
『いいや、今日は友人の手助けに』
「友人の…?まさか、」
『あァ、銀時たちを逃がしに。…それがここの太陽の願いだろう?』
「…琥乃玻に隠し事は出来んな、付いてきなんし」


月詠は背を向けてさっさと走り出すと、琥乃玻を路地裏に連れてきた


「此処で待ちなんし。すぐに方をつける」
『了解』




















その後、琥乃玻が建物の上で物見遊山に現場を見ていたところ
はじめの方こそかっこよく決めていた銀時たちだったが、段々ギャグじみたことになってきていた

清太の頭にクナイが刺さってたり、銀時のデコっぱちに刺さってたり、神楽と新八の心臓部分に刺さってたり

まァ全部ニセモンな訳だが























「起きなんし、さっさとせんと今度は本物のクナイを叩き込むぞ。…琥乃玻、もう出て来てよいぞ」
「…あり?生きてる。って、琥乃玻!?」
『よォ銀時。神楽と新八も久しぶりだなァ?にしても…随分馬鹿やってたな』
「言わないで…銀さん悲しいから」
「銀ちゃんが悪いアル、清太にあんなことするからネ」
「そうですよ!もっと周り見てください!」


3人がギャーギャー言い始めたのを見た琥乃玻は、清太に改めて向き合った


『お前さんが清太だな?俺ァ琥乃玻だ。テメェはしっかり守ってやっから、そう怯えんな』
「う、うん。ありがとう琥乃玻お兄さん」
『あー、悪ィな俺は女だ』
「えぇ!?ご、ごめんなさい。じゃあ、琥乃玻お姉ちゃん?」
『あァ、それでいい』


握手を交わし、一通り親睦を深めあうと
未だ言い合っていた3人をとめ、琥乃玻たちは月詠の後をついていった


「そういえば、琥乃玻仕事はどうしたネ」
『あァ、有給もらってきた』
「な、なんかすいません。…僕らの為なんかに」
『馬ァ鹿、ダチ助けんのに遠慮もなにもいらねェんだよ』


琥乃玻はポンポンと新八の頭を撫でた
神楽が羨ましそうに見ていたため、同じように頭を撫でていた


「ここだ」


月詠の声が聞こえ、すぐそばの管に扉があり
そこから抜け出せるようになっていた


「さっさとここから逃げろ。次 来たら本当に殺す」
「部下どもを引かせオイラ達をにがすために芝居をうったのか、百華の頭のアンタが…」
「わっちはよしわらの番人、吉原で騒ぎを起こす奴は消す。それだけでありんす」
「悪いが消えることはできないし、アンタらに消される覚えもない。オイラは、かあちゃんに、日輪太夫に会いに来ただけだ」
「だったらなおさら帰るがいい。わっちにねしらを逃がせと頼んだのは誰でもない













その日輪じゃ」


月詠はどれほど鳳仙が日輪に執着しているのか、常夜の街吉原ができたのか、連れられた女がどうなるのか、そして、いかに日輪が気高く強い太陽のような人であるかを語った

それを話す月詠の目は声は、とても暖かく情愛に満ちていた

どれほど日輪が月詠にとって大切なのかがよくわかった

二人は太陽と月のように、一心同体なのだろうということも







「わっちらにとって日輪は常夜を照らす太陽だったように、日輪なとって清太…ぬしも特別な存在だったのじゃ


太陽は晴天でなければ輝けぬ」


「……」
「わっちはぬしを死なせるわけにはいかぬ
帰れ…ぬしが死ねば日輪の今までの辛苦が水泡に帰す」
「……」


清太が困ったような表情をしていると、後ろから近付いてくる気配に琥乃玻は気づいた


『オイオイ……』
「過分な心遣い痛み入るがねどうやら…」

「『もう手遅れらしいぜ』」


琥乃玻と銀時が後ろを振り返ると、神楽と同じ種類であろう番傘をさした男が立っていた


「あれは…まさか…あの傘は……夜兎!?」


スッと、傘を上げた男は生気の無いような、無気力な男に見えたが、立ち姿や雰囲気はまったくの別物で、幾多の戦場をくぐりぬけ尚且つ生き抜いてきた者の匂い
こびりつくまでに染み込み撒き散らす血の匂い

本物の夜兎の匂い


男は「ガキをよこせ」と言葉を発すると、いきなりこちらに踏み込んできた

月詠は瞬時に大量のクナイを投げつけるが、
全て傘により止められてしまう

が、それはフェイクで男の後ろに回り込んだ月詠は顔面にクナイを叩き込んだ


ピキッ


しかし男は投げられたクナイを歯で受け止め
軽くひびをいれていた

「なっ!!」

男は月詠の顔を鷲掴みにして地に叩きつけた
そのまま銜えていたクナイで攻撃をし、月詠も新しく出したクナイで応戦している


「月詠さんんん!!」
「早く!!今のうちに逃げろ!!」


その言葉を言い終わらないうちに、次は管の中から銃撃が繰り返され清太の傍にいた銀時の腹を管を砕いてでてきた番傘の先端が突いた


「ガハッ」
「銀ちゃんん!!」


飛んできた銀時を琥乃玻は受け止めた


『無事か、銀時』
「ゲホッ、なんとか」


管の中からでてきたのは大柄な男
こちらも番傘を持っていることから、夜兎であることは分かった


「夜兎が二人!!」


迂闊に飛び出せば殺られる
まさに八方塞がりだ


『…あ〜、やべェ』


誰もが冷や汗をかき焦っている中、琥乃玻だけはどことなく嬉しそうに、歓喜に打ち震えた声を出していた
銀時が隣を見ると、眼は瞳孔が開き、口元はニヤリと吊り上がっている
手は既に刀に掛けてあり、今にも引き抜いて切りかかりそうな勢いだ


「っ(また病気が出やがったか!)」


病気とは琥乃玻が持つ、
pleasure,murder,syndrome。日本語訳は快楽殺人症候群と、かなり危険な病気だ

人を殺すことによって快楽を得る、楽しみを見つける、それは恐ろしく夜兎の本質と似通ったものがあった

琥乃玻は、夜兎の戦闘力を感じ取り、
より強いものを求める本能に従い夜兎と一戦交えようとしていたのだ


「琥乃玻、落ち着け。今は清太を逃がすのが最優先だ」
『……………了解』


心の中でかなりの葛藤があったようだが、
潔く見切りをつけて戻ってきた


『悪い』
「しょうがないだろ、病気だ」


「放せっ!!」


そうこうしているうちに、清太が大柄な男の方に捕まってしまった
琥乃玻が走り出そうとするよりも早く神楽が飛びたしてきた


「清太ァァァ!!」
「邪魔だ、どいてくれよ」


神楽の後ろから響いた声
それは琥乃が出会った猛者のどれよりも
純粋に力を求める者の、声

呼吸をするように殺しをし、
己の快楽の為に強者と闘う



これ程までに本能に忠実で、
これ程までに闘うことが至福だと感じ、
これ程までに心地の良い殺気と、
これ程までに強い闘気を携え、
これ程までに己と似通った
寧ろ自分自身と同義である者



『アハ、俺と同じ匂いだァ』



先程必死に繋ぎ止めた理性は、突然現れた
この男ーー神威によって完全に焼き切れた


ドガァァァン!!!


琥乃玻が笑ったと同時に神威によって管の一部が粉砕された


「ぎ…銀さんんん!!みんなァァ!!」
「やり過ぎたかね
うるせーじーさんにどやされそうだ
「大丈夫だよ、鳳仙の旦那はこんな街より花魁様にご執心だ。この子を連れていけば機嫌も直る、それにこれぐらいやらなきゃ死ぬ奴じゃないんでね」
「知り合いでもいたか?」
「いや、もう関係ないや」
『ーーヘェ、そりゃァ神楽があんまりじゃねェか?』


隠れていた琥乃玻は清太の体を掴み、三人から距離を置いた


「お前さんはさっきの…」
『随分と清太に、執着すンじゃねェか
宇宙海賊春雨、第七師団の方々』
「!ほう…」
『しかも、春雨の雷槍とまで恐れられる団長の神威や副団長の阿伏兎までお出向きたァ、
ちょいとオイタが過ぎンだろ』
「貴様どうしてそこまで!」


云業が発した言葉は琥乃玻の無言の圧力により途中でつぐまれた


『吉原に何の用だ』
「……」
『ま、大方強大になりすぎちまった吉原への警告みてェなモンだろうがな。あァ、団長サンはただ鳳仙と殺り合いてェだけだろーがな
ったく、正気か?夜王と殺し合うなんてよォ……仮にもテメェの師匠だろ?』


そこまで言ったところで、神威の番傘が飛んできた


ガシャンッ!!


琥乃玻は清太を抱え冷静にそれを躱した


「そこまで知ってるなんて凄いね、お兄さん
でも、ちょっと知り過ぎかな」
『ヘェそうかい、ならどうすンだ?』
「うーん、殺すのは勿体無いけど…ま、しょうがないか」


ここまでのやり取りで、琥乃玻と神威の殺し合いは決まってしまったようだ


『そりゃおっかねェ。せいぜい殺られねェよう逃げ回るとすっか』
「逃げられないよ、俺からは」
『呵々っ、テメェが負けるかもなァ?』
「なに、おちょくってるの?…殺しちゃうぞ☆」


次の瞬間、爆音が響きわたった





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