[携帯モード] [URL送信]

main
第一話
サンサンと太陽の光が降り注ぐ日中
黒装束に身を包んだ青年が力無く倒れていた


『才蔵、無事か?』


才蔵と呼ばれた青年はゆっくりと身体を起こした
才蔵を呼んだのは狐面で顔を隠した娘だが、
格好は見るからに男が着るもので、口調も決していいものとはいえなかった


「これが無事に見えるか?月牙!」


月牙と呼ばれた娘は、狐面に唯一隠れていない口を動かし、口角を上げた


『見えねェなァ?……ったく、たかが3日喰いっぱぐれたくれェで死にかけんな』


月牙はニヤリと笑っていた口を下げ、呆れたように言った


「うるせえ!大体水がありゃ1週間生きてけるお前と一緒にすんな!」


才蔵は勢い良く立ち上がって月牙を指差すが
クラりとふらつきすぐにまたうずくまった


『貧血なんだから立ち上がんなよ…仕方ねェな、ちょっくら喰いもん見つけてきてやらァ。そこ動くなよ、才蔵』
「おー、頼んだ」


才蔵は倒れたままヒラヒラと手を振り、森の奥へ入っていく月牙を見送った




















『こんな森ン中じゃ木の実しかねェよなァ』


月牙は独り言を言いながら食べられそうな木の実を探していた
途中途中きのこやらなんやらはあったが、余りにも色が毒々しすぎてやめたのだ


『あ〜、もうこうなったら猪とか仕留めるか………ん?』


月牙が周りを見渡した時、自分の立つ場所の更に奥からコチラに走ってくる娘を見付けた
娘のおくには忍びと思われる輩が5〜6人いて
容赦なく娘に苦無をあびせていた


『おいおい…ありゃ一体なんだってんだ?』
「ハァ……ハァ……ハァッ……!!」


息も絶え絶えな娘は今にも倒れてしまいそうで、月牙は見ていられなかった
娘の方へ走り出そうとすると、今まさに忍びが放った苦無が娘の背中に刺さろうとしているところだった


『ヤベッ……“遮影"!』


月牙が叫ぶと、娘を黒い空間が包んだ



















「なっ………なにコレ!?」


アタシが走って逃げてたら、いきなり黒い空間が目の前に現れた
前に進めなくて、後ろを振り向いたら飛んできた苦無が黒い空間に阻まれてその場に落ちた


「これ…アタシを守ってくれてるの?」


思わず黒い壁に手を置いたら、何もなかったみたいにスっとなくなった


「キャッ………」
『大丈夫か!?お嬢ちゃん!』



身を預けるものがなくなって、前に倒れそうになったアタシを、狐面をかぶった人が受け止めてくれた


『仕方ねェな…お嬢ちゃん、ちょっとばかし我慢しててくれ!』
「わあっ!?」


月牙は娘を担ぎあげると、才蔵がいる方まで
走り始めた


『(才蔵怒るかもなァ…)』


月牙は怒りに震える相棒の姿を思い浮かべ、
苦笑いをしながら走っていた











「ー…この広い天下に、俺と月牙の居場所ってのはないのかね…」


傍に在るべき居場所はある。
俺にとって月牙がそうであるように、月牙にとっての居場所は俺だろう
だが、互いに“身を"置く、預けられる居場所がない
今はまだ見つけることが出来てないが…いつかは見つかるだろうと信じたい


ガサガサッ


不意に近くの林が揺れた
誰か来たのかと武器に手をかけたが、月牙が戻ってきたのかもしれないと手を離した
が、林から飛び出してきたのは月牙と月牙に担がれた女ーーそして、忍び共だった


『わりー才蔵!喰いモンじゃなくて厄介モン拾っちまった!!』
「何やってんだお前は!俺の期待を返せ!」
『だから悪かったって!後宜しくな?』
「ってめ…ハァ、仕方ねーな!」


清々しい笑顔で出てきた月牙は、すぐに謝罪をしてから才蔵の後ろに身を隠した
月牙自身相当のやり手だが、何を隠そう月牙
は極度のめんどくさがり
自分より強かったり接戦な相手ならまだしも
遥かに格下の奴は相手にしない性分だ
だから後片付けは才蔵に頼み、自分は娘の介抱につとめた


「ーーったく、腹へってるのに余計な体力使っちまった」
『お疲れサン』
「全くだ」
「す…す…」


月牙の肩から降ろされた娘は、俯きながらなにか呟いていて、身体をぶるぶる震わせていた


「あー、怖かったか」
『才蔵の顔が』
「いい加減にしろ!!」
『あでっ』


巫山戯た月牙の頭を才蔵がバシッと叩いた
かなり強めに叩かれ、軽く涙目だった…といっても、面に隠れてみえてはいないのだが


「すっごーい!すごい強いのねアンタ!
もしかしてかなりの手練!?」
「もしかしてって見たろ?今のワザ、あ!?
『お嬢ちゃん、それよりも先にお礼言わねェと、この兄ちゃんに助けて貰っただろ?』
「このぐらい強いなら女の子ひとり守るくらいお手のもん!?」


雰囲気をぶち壊すようにしゃべり始めた娘は
あまり人の話を聞かない子だったようで、
才蔵のこめかみに薄く青筋が立っている


『(こりゃとんでもねェ我が儘嬢ちゃんだ
…困ったなァ、オイ)』


月牙が軽く現実逃避に走っている間に、才蔵がソバに釣られて信州上田まで共に行くことになっていた



























「んんっ、んっまーいっ」
「(七杯目…よく食うな…)」


信州の国境付近にある蕎麦屋で、才蔵と娘は
蕎麦を食べていた
少食の才蔵は一杯、更に少食である月牙は、
腹が減ってないとお茶を飲んでいた
もちろん月牙の方は自分の金だ
才蔵と月牙は美味しそうに蕎麦を食べる娘を横目に、娘を観察していた


「(手も足も擦り傷だらけで呼吸も速い、かなり気を張っているんだろう……それを表に出さないのはけっこうな精神の持ち主か…あるいはそうせざるを得ない何かがあったのか…)」
『(…このくらいなら、必要ないな)』


月牙は出しかけた手を再び戻した


「ごちそうさま!」
『「早っ!!」』
「!あら小食ね、そっちの人に至っては食べてすらいないし!」
「テメェが大食いなだけだ!」
『むしろお嬢ちゃんよ身体の何処にそれだけ入ってるのか知りてェよ』


半ば呆れながらそういうと、娘はムッと顔を歪めた


「そのテメェっていうのとお嬢ちゃんっていうのやめてくれる!?アタシは伊佐那海っていうの!アンタたちの名前は?何してる人?
「ーーー才蔵。侍だ」
「才蔵!?じゃあ略して才ちゃんね!」
「殺すぞこのアマ!」
「怖っ」
『ブッ!クククッ…さ、才ちゃんとか……』
「月牙、ぶん殴るぞ…」


月牙は口に含んでいたお茶を吹き出すと、
腹を抱えて笑い始めた
その横で拳を構えた才蔵が唸るように月牙を
脅すと、すぐに笑いを収めた


「で、そっちの人は?」
『俺は月牙。何してる人って言われると…
ん〜、そうだな、武闘家じゃねェか』
「へ〜」


それ以上伊佐那海は深くは聞いてこなかった


『伊佐那海、ソレ落ちそうだぜ?』


髪にさしていた簪を月牙が指摘すると、
伊佐那海はしっかりと元に戻した
しかし、戻すときに簪のまわりに一瞬だが光がともったのを二人は見逃さなかった


「…月牙」
『あァ…嫌な予感がするなァ』





































「ちょっと待ってよ才蔵〜!月牙はちゃんと歩幅を合わせてくれてるのに!」
「案ずるな、このあたりから上田だ。ここまで来ればもう大丈夫だろう……じゃ!」
『あっ、伊佐那海!急いで人が多く通るところに行くんだぞ!ここらは暗くなると危ねェからな!』


はやく離れたい才蔵は、月牙の手を掴むとさっさと行こうとしたが、月牙が伊佐那海に
伝えたいことを言っていたため、少し待った
が、それがあだとなり


「ちょちょちょちょっと待ってよ!」


すぐに伊佐那海に袖を掴まれた


「もう少しつきあって!アタシお城の入り方なんてわからないし!」


『げェ、まさか城って…』
「信州上田城か!?」
「う…うん」
「〜〜っ帰る!」
「才蔵!」
『…残念だが才蔵ォ…そうもいかねェみてェだぜ?』
「!!!」


月牙が見る先には、木の上に立つ沢山の忍びの姿があった


「お前ら…怪しい…何者!?」


片言の独特な喋りでコチラを睨んできたのは
丁度月牙と同い年くらいの青年だった


「(コイツらもしや…)」
『あ…(もしかしてこいつ等…)』


月牙は才蔵のイライラした目を見てなにか確信したようだった


「怪しくないわよ!!アタシは出雲の巫女です!!」
『え、伊佐那海巫女だったのかよ?』
「神聖な巫女…がなぜ暗殺者の伊賀者と!?
伊賀者は…みな 外道だ」
「やはりな」


才蔵はいきなり苦無を取り出すと、青年に浴びせかけた


「うるせえんだよ!!集団でゾロゾロ来やがって!!腰抜けの甲賀者が!!
飼い犬はとっとと犬小屋に帰りやがれ!!
ご主人様に骨でももらってこい!!」
「ーーークソ伊賀」


売り言葉に買い言葉とはまさにこのことだ
やっていることはそこらにいる忍び顔前の
戦いだが、理由を述べれば子供同然の喧嘩
身体が大人でも中身は子供
目も当てられない程くだらないものだった


『ったく、餓鬼かあいつ等…』
「真田の領域汚す奴…許さん!!」
「ひとのツラに犬くせえ息はくんじゃねえ」
「犬じゃない!!我は猿飛佐助!!
真田忍隊頭!!貴様!!名乗れ!!」
「調子くれてんなよこの甲賀のサルが!
この霧隠才蔵に名乗らせといて生きていられると思うな!!」
「霧隠っ…」
「あの摩利支天の…」
「才蔵ってば!こと荒立てないでよ!」
「引っ込んでろ!!」
『全く…甲賀嫌いもここまで来ると呆れるなァ…』


月牙は呆れたようにため息を吐いたが、どうやら二人の戦いを止める気はなさそうだった
月牙自身も、この戦いを見届けたいのだろう


「俺は甲賀者が大っきらいなんだよ!!」
「我も然り!!だが 貴様負ける」
「なに!?…(しまった!!)」


いつの間にか才蔵の周りにはいくつもの葉が
まい落ちていて、才蔵の顔に張り付いた


「(しびれ草…か!!)」
「才蔵!!」
『心配すんな、伊佐那海』
「え…」
「弱いな!!」


青年は動けずに地面に落ちていく才蔵の背に
苦無を突き立てた
ーーが、才蔵は変わり身を使い逃れると、すぐに反撃に移った


「ーーー貴様主は!?」
「あいにく心揺らす奴にまだ出会えなくてね!」


口ではそんなことを言っている二人だが、互いを強者と認めていた


「んもうっ、月牙止めてきてよーっ!」
『そうだなァ、俺もちょっと飽きたしな』


月牙は再び刃を合わせようとする二人の間に入り、才蔵が先程放った苦無二つで、前後二人の攻撃をとめた


キィンッ!


『ーーはい、そこまでだ』
「なっ…!?」
「月牙!!」
『悪ィなお二人さんよォ、そろそろお姫さんがお怒りなモンでね』
「そうよっ、いい加減にしてくんない!!?
アタシ真田幸村って人に会いに来たんだけど!!!」
『…まァあの通りだ、って訳で、城内に入れてくれねェか?猿飛の旦那』
「……諾」




















































「(これが難攻不落の上田城ね。つーか
「広いねー」とか「すごーい」とか騒ぐと思ったらずっと押し黙ったまんまか…なに背負ってきたんだか、ま ついでだからあのサルの飼い主でも見て帰ろう。あれ程の使い手の主人とは…)」
『(……小せェ背中、どんだけ深ェもん抱えてんだかなァ……にしても、出雲か…あそこは確か3日4日前に焼き討ちされたって聞いたが……生き残りか?だったらなぜ忍びが追っかけてくる必要があったんだ……?)』


月牙と才蔵が考え込んでいると、ドカドカとおとを立てながら近づいてくる気配が二つ


「オイオイ厄介ごとじゃねえだろうな、なんで俺名指し!?」
「ーー若!!」
「まあいいや、面を上げよ!」


勢い良く襖を開け放って入ってきたのは
着流しを着て無精ひげをはやした男と、かなり整った顔をしている男だった


「ーーって、平伏してねえじゃねえか!」
「(柄悪ィ…)


才蔵は心の中でそう思ったが、口に出すのが月牙である


『柄悪ィ殿様がいたモンだなァ……』


幸い前にいる三人には聞こえていなかったようで、才蔵は焦ったが安心した


「お前が出雲の巫女か、ではあっちのが…」
「!?」


真田幸村はチラリと才蔵と月牙をみてきたが先程も言ったように、思ったことを口に出すのが月牙だ、故にーー


『なんか用かよ?』


例え一国の城主であろうとも臆せずに話す


「いやなに、狐面だ、と思っての」
『あァ、コレ?悪ィけど外さねェよ』
「そうか」


交わしたのは僅か二言三言だが、二人の間では遥か上の腹の探り合いが繰り広げられていた


「……あ……ああ……ようやく会えました!どうか助けてください、お願いします!」
「うむ、まずはなにがあったか話してみよ」
「社は…火の海でした…どこもかしこも朱…
朱で……境内にはみなの骸が転がり…ひどい血臭でむせかえるほど……あいつらは無差別に殺戮を…出雲の者は皆殺しだと!!
げんに私にも追っ手がかかり…才蔵と月牙に助けてもらわなければここにたどり着けませんでしたーーー私は……」


伊佐那海は涙を流しながら辛い過去を一心に話した


「私は もうひとりになってしまって…どうしたらいいか……」
「ーーで!?俺になにをしろと?」


直後に放った真田幸村の言葉に、才蔵と月牙は目を見開いたあと睨んだ


「な…なにをって…神主様はあなたを頼れと…!!」
「んなこと言ったって仇討の片棒は担ぎたくねえし追っ手かかってるんだろう?こっちまでとばっちり食いそうだ。俺は危ういことには首をつっこまないタチでな、悪いがしてやれることはないわい」
「そ……そんなっ………」
「ま 俺も鬼ではない、今晩くらいら泊めてやる。六郎!部屋の支度をさせよ!」
「御意」


無情にも襖は閉められ、真田幸村と小性は出ていってしまった


「(……さすが殿様、保身が一番ってか)」
『(なにが鬼ではないだ、労わりの言葉1つもでねェくせしてよォ…)』
「ーーおい、俺らはもう行くからな!」


才蔵が伊佐那海の肩を掴むと、悲しげに揺れた目から涙が止めどなく溢れていた


「ま…まあ そう落ち込むな!殿様なんてあんなもんさ」
「……うっ…」
「ア… 」
『…馬鹿才蔵』
「アンタになにがわかんのよ!!」


才蔵の言葉に感情が爆発したのか、しきりに
力のない手で才蔵を叩きながら訴えていた


「…う…うええん…」


伊佐那海は才蔵と月牙に寄り掛かるようにして泣いた



「(この女ーーずっと強がってたんだな)」
「ひっうっうう……」
「お前も昔の俺みたいにーー独りみてえだなあ(ーー可哀想に、あのサルの主人なら少しはマシな男かと思ったが…とんだ見込みちがいだったか)」
『才蔵、あの殿様ァとんだクソ野郎だったなァ』
「ああ」

























その後、月牙と才蔵は城を出た



ザッ ザッザッ ザッ


『なァ…才蔵…』
「あァ、ーーなあんでついてくんだよ!!
おとなしく城に泊めてもらえ!!」
「だって…あそこにいたって明日からどうしたらいいか……」
『夜にこんなトコ彷徨くよりよっぽど安全だぜ?さっさと城に帰ンな』
「イヤ!だったら二人も一緒に…」
「なんで俺らが!!」
「一緒にいてよ二人強いし…出会ったのもなにかの縁じゃない!」


口では強がっている伊佐那海の足は、もう歩くのがやっとのくらいに疲れていた


「俺らについてこられても困る!ー行け!」
「イヤ!見捨てないでよ才蔵、月牙!」
「見捨てっ…」
『人聞きの悪ィ…』


伊佐那海のまさかの発言に二人は動揺した
次の瞬間、三人の周りにいくつもの鎖が囲んでいた
才蔵は両手を拘束され、伊佐那海は身体中を雁字搦めにされた


『あぶねっ………うぁっ!!』


運良く抜け出した月牙も、まだ気配を絶っていた忍びの鎖に捕まり、近くの木に押さえつけられた


「おお〜いい格好!」
「いいから早く殺れ」
「はいはいっと」


忍びは小太刀をそれぞれ取り出し、伊佐那海へ飛びかかった


「ひっ…さ…才蔵っ!!月牙っ!!」
「チッ」
『クッソ、シクった!(月がでなけりゃ“断影"
も“遮影"も使えねェ!!“新月"…いや“真月"やらねェとマズイか!?)』
「オラァ!!」
「きゃあああっ」


才蔵と月牙が鎖から逃れようとしている間に
伊佐那海に凶刃が迫っていた


バサァッ


才蔵と月牙の横を、何かが風を切って通り抜けた


「うわっ!?」
「なんだこの鳥!」
「ぎゃああ!!」


複数の木菟が忍びに飛び付き、顔を引っ掻いたりつついたり、目玉を抉りだしたりした


『うげェ…エグッ』
「お前ら内府の手の者だな!?」
「狸の…ニオイだ」


丘の上に立っていたのは、真田幸村と猿飛佐助だった


「……っ!!」
「俺らを…エサに使ったな!?」
「悪い悪い 許せ、敵を見定めるためだ
よもやこの程度の敵に殺られるような男共ではあるまいな!?」
『おーおー、言われてんぜェ才蔵』
「テメェもだろ!…上等だ!」


才蔵は靴に仕込んでいた刃で鎖を断ち切り
月牙は一瞬だけ“真月"となり腕力で鎖を破壊した


「んなっ…!!」
「よーく見とけよ!!真田幸村!!猿飛佐助よ!!」


月牙が飛び散っていた忍びを投げ飛ばして1箇所にまとめ、そこに才蔵が瞬光をかけた


「ま、こんなもんよ!」
『あっけねェな』
「お前の言う通りだな佐助!」
「ーーーはい」
「いたたた…」
『おっと、待たせたな伊佐那海。今鎖とってやるから待ってろ』


月牙が伊佐那海のそばにより、鎖を切ろうと
しゃがんだ時、まだ隠れていた忍びが出てきた


「殺った!!!」
『しまっ…』
「あ………」


さきみたま
くしみたま…
まもり…たまえ!!


ズゥン!!!


黒い球体がいきなり現れたかと思うと、伊佐那海と月牙、忍びを取り込んだ
月牙は咄嗟に伊佐那海を抱き込んだ


『マジかよっ……っ、月詠!“喰らえ"!!』


月牙が叫ぶと、周り広がろうとしていた黒い球体が月牙に吸い込まれるように消えた
幸い伊佐那海は聞こえておらず、球体も、吸い込まれるというよりは消滅したに近かったため勘繰られることはなかった


「な…なんだ!?」
「??」
「これは…すごいのう…」


黒い球体か消滅したあとには、朽ちた木々が
残っていた


「あの狸め、これを狙っておるのか」
「??」
「こりゃますますやつらに渡すわけにはいかんのう。伊佐那海は真田が預かる、ここであれば安全だ」
「え…」


自分の安全が保証された伊佐那海は、喜ぶと思いきや不安そうな顔で才蔵と月牙を見た


「さ…才蔵と月牙は!?」
「俺らは関係ねえよ!ここでお別れだ!」
『元々、伊佐那海を届けに来ただけだしな』
「そんなっ……」


伊佐那海は二人が行ってしまうとわかると、
泣きそうな顔になった


「一緒に上田にいようよ!」
「カンベンしてくれ!お前みたいな女といると疲れる!」
『俺等の旅は安全じゃねェんだ、無理だな』
「なによっ…そうだ!」


何をひらめいたのか突然伊佐那海は憤慨だ!
といわんばかりの表情で二人を見据えた


「おソバおごってあげたじゃない!!
アタシに恩を返そうと思わないの男のクセに!!」
「………」
『はァ?』


あれは守ってくれてありがとうのソバじゃなかったのか!!!と、心で才蔵は思うものの
余りにも衝撃的な言葉をもらい、口がパクパクするばかりで言葉になっていなかった
月牙は勝手な言い分にあきれ果て思わず呆れた声がでてしまっていた


「なんだお前ら、女なんかに借りがあるのか!」
「恥。」
「それは返さんといかんなあ…男として」
「肉体労働決定」
『(俺男じゃねェ、おごってもらってもいねェ)』


月牙は心の中でそう言うが、誰も心を読める者はいないのでそれは誰にも届かなかった


「頼んだよ才蔵!」
「勝手に決めんな!」
『んじゃ、頑張れ才蔵』
「 待 て や コ ラ 」


月牙が手を振り山を降りようと背を向けた所
才蔵のドスのきいた声と共に月牙の頭を才蔵の手が鷲掴みにした


「なにテメェだけトンズラしようとしてんだよ!!」
『俺おごってもらってねェし。大丈夫!月にいっぺんくれェは顔見に来てやンよ!』
「 ふ ざ け ん な ゴ ラ 」
『いてててっ!!』


月牙は清々しい笑顔で才蔵を見捨てると、
更に鷲掴みにした手を強く握りこんで怒りを
しめす才蔵
ギリギリと音が鳴るほど締めあげられている


「えぇーっ!?月牙も一緒にいてよ!!」
『うーん、お勤めとかめんどくせェ』
「テメェ、相棒おいて逃げる気か!」
『逃げるって…人聞きの悪ィこと言うなァ』


才蔵と伊佐那海の追求からのらりくらりと逃げる月牙を見ていた真田幸村は、月牙に呼びかけた


『あン?なんでィ真田の旦那ァ』
「いやのう、お勤めが嫌だというのなら心配せんでいいぞ。やる事は城の守護のみじゃ」
『ん〜、執務もやんねェ?やるこたァ戦闘のみっつう解釈でいンだな?』
「左様」
『ふぅん』


月牙は顎に手を当ててしばし考えはじめた


『…才蔵とも居られるし、好きな事やってられっしなァ。…真田の旦那ァ、給料でンだろ?』
「現金な奴じゃのう」
『このご時世だからなァ、ぃよし!決めた!
世話ンなるぜ!真田の旦那!』


月牙は膝をパシリと叩いて起き上がると、
潔く決意した


『(俺と才蔵が求めてた居場所は、ここかもしれねェなァ)』












[*前へ]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!