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夢と現実
ーー目を覚ますと、神社の前だった


『あれ...?』


たしか、俺は寝てたはずじゃなかったか?
今日も兄貴と追いかけっこをして、首無にあやとりを教えてもらって、母さんとつららの手伝いをして、
それで、本を読んで寝たんじゃなかったか?


ザアァッ......


ふいに、風が吹いた

あたり一面に、黄色い花が咲き乱れていた

ーーー黄色い、"山吹“の花が


『っ...!や、ま...ぶき...?』


山吹の花、うた、鯉伴


『ーー山吹、乙女......?』


目の前には、山吹の花に囲まれた俺と瓜二つの、山吹乙女が立っていた

彼女は、静かに笑う

隣で、鯉伴とリクオも、笑う

俺は喋ることも、体を動かすこともできない

リクオが、俺の手を引っ張って連れていく

まて、駄目だ。向こうにいくな、鯉伴が、

親父が、助けられないっ......!!


『親父!!』


リクオの手を振りほどいて、一目散に駆け出した

親父の驚く顔と、山吹乙女の、酷く悲しげな顔が見えた


ーーズブリ、


『あ...あぁ...』


親父の胸から生える、刃こぼれのひどい刀

親父の口から、胸から溢れる"アカ“

親父の服に、足に、腕に、俺の顔に、服に、

その鮮やかで毒々しい"アカ“が

ーーーまとわりついて、離さない


『あ...あぁあ...』


ゆっくり、親父の身体が倒れるーー

体温がどんどん無くなっていくーー

呼吸の音が、聞こえないーー

目から、光が消えていくーー




















親父から、



















音が消えた










『ーーっ!!』


勢い良く目を開けて起き上がる

ゼェゼェと息をしながら、必死に頭の中を整理していた

今のは夢、ただの夢だ

ーー夢、...夢、夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢

夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢

夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢

夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢

夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢

夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢

夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢

夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢ーーっ......




『ただのっ...夢だ...!!』



冷や汗と寝汗ですっかり冷えてビショビョになった着流しを掴んで言い聞かせた

でも、今は夢だったけどーー次は?

もしかしたら、明日かもしれない
おれのめのとどかないところで、親父たちが山吹乙女に...羽衣狐にあったら?

いや、まだ大丈夫だ。
まだ、山吹の咲く季節じゃない

それに、親父が俺を置いてリクオと二人ででかけるなんて、一度も無い、無かった

なにより、リクオが一緒にいたがる


『っ、気持ちわるっ...』


極度の緊張状態だったせいか、途切れたのか
一気に気分が悪くなってきた

急いでトイレへ駆け込んで、胃からこみ上げてくるものを吐き出した


『ヴぇぇ...ぅくっ...』


あの光景が、頭から離れない
アカが、山吹が、鯉伴が、離れない

恐怖に震えながら、俺は何度も何度も、
その場にへたりこんで吐き出していた


「鯉吹様!?」


どれくらいたったのか、たまたま起きたのだろう首無が廊下を走ってくるのが見えた

チラリと見たが、かなり顔が引きつってる
誰も来ないと思ってたのになぁ...


『大丈夫、だ...夢見が悪くてな、少しだけ気分が悪くなっただけだから...』
「少しだけって...!そんなに顔色を悪くさせて何言ってるんですか!」


首無はそう言いながらも、コップに水を入れて持ってきてくれた


「どうぞ、胃酸くらいしか吐き出せていないなら口の中が気持ち悪いでしょう?」


意識すると、確かに独特の酸味が広がってかなり嫌な感じだった

素直にお礼を言って口をゆすがせてもらうことにした


「水はこのタオルに吐き出して構いませんからね」
『ん、...悪いな首無』


好意に甘えさせてもらって、タオルに水を吐き出した

十分に口をゆすいで立ち上がると、首無が
何を思ったのか突然俺を抱え上げた


『首無?俺は一人で歩けるぞ?』
「そんなフラフラになって何を言ってるんです?お部屋までこのまま連れていきますよ」


部屋に戻ると、汗だくになった着物を着替えさせられた
一人でも着替えられたけど、きっと言ったところでやらせてはくれないだろう...


『悪い...なぁ首無、親父は今何処にいる?』
「二代目なら部屋にいるのを見ましたよ?」
『そうか、ならいい』
「...鯉吹様、甘える事は悪いことではありませんよ」
『え...?』


唐突に何を言い出すかと思ったら、そんなことか
あいにく、この歳で甘えるのは抵抗があるんだよな...


「怖い夢を見たら誰かに抱きしめてもらっても、いいんですよ?」


優しげな瞳で俺に語りかける首無に、恐る恐るといった形で俺は抱きついた


「鯉吹様?」
『じゃあ...首無に抱きついてもいいんだよね?』


首無の背中に両手を回してギュッと抱きつくと、首無もしっかり俺に腕を回してくれた


「二代目じゃなくていいんですか?」
『首無がいいんだ...それに、親父に迷惑は掛けたくない』


一緒に布団に横になると、首無の体が心地よくてすぐに眠くなってきた


『俺が寝たら...出ていって、いいから...』


それだけ呟き、俺はとうとう寝た
































「...寝ちまったか?」
『ええ、入ってくればよかったじゃないですか、二代目』
「首無がいいと言われちまったからねぇ」


二代目は鯉吹様の傍に座ると、たっぷり涙のたまった目尻を指で拭った

大丈夫だとは言っていても、とても苦しそうに寝ている

顔は驚くほど青白く、上下している胸を見なければ死人のようだ


「二代目は何処かと聞いてきましたよ。...あなたの名前を呼んでました」
「...そうかい」


どんなに苦しそうにしていても、いくら怖くても二代目を呼ぶことはなかった

とてもおそろしく我慢強い子で、同時にとても儚い子供

この年で既にかなり賢い鯉吹様は、自分の欲求をほとんど持たない
なまじ我慢を覚えてしまったせいなのか、リクオ様に遠慮をしているのか、自分のことなど二の次で常に他人を一番に考える

子供らしからぬ表情、行動、言葉

その目で一体どれだけの世界を見つめているのか
その胸のうちに抱えているものはどれほどのものなのか


「出入りの時、何時も見送りに来ているでしょう?きっと出入りの意味もわかってるんでしょうね、二代目を心配していましたよ」
「...子供に心配されちゃ世話ねぇな」


何時も出入りに行く二代目を心配そうに見つめていた
不安で一杯の若菜様の手を握っては、大丈夫だとかきっと無事で帰ってくると語りかけている

言いはしないが、





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