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「――よく来たな」
 丸くなった背中が呟くように小さく言った。彼の外見は僕と同じくらいの年齢に見えるのだけれど、実年齢はもっと上なのかもしれない。喋り方でそんな印象を受ける。どうやら彼は僕を待っていたようだ。僕の存在にも気付いている。
「そう。――カインだな」
 僕はまだ名乗っていない。それなのに彼はどうして知っているんだろう。知らない筈――いや、違う。思い出せないだけで、僕は彼を知っている。とても懐かしい声だ。どこかで会ったことがある。
「……あなたは……」
 そうだ。彼なら、精霊がいないのも頷ける。僕たちとは違う世界を生きている彼なら。
「会ったことはあるさ。いいや、それどころか俺はいつでも見守っていた」
 いつでも見守ってきたのだ。彼はそう言った。姿を見たことはないが、いつも感じていた不思議な気配は彼なのかもしれない。
「知っている、だろう? カインは意識していた筈だ」
 それはまるで、僕の配役をあらかじめ知っているかのような口ぶりだった。これは《劇》なんかじゃないのに。
「ええ。僕はあなたのことをいつも感じていた――。あなたは何者なんです?」
 彼が椅子から立ち上がり、振り向いた。静かに唇が動く。僕の運命を握っているとでもいうのだろうか。所詮操り人形だとでも? 嫌だ。信じたくない。
「俺は……――だよ」
 そこで、目が覚めた。

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