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◇風船と君と万年筆[342]
 カラフルな情景はいつも、それが夢であることを教えてくれた。窓の外には緑が広がり、子供達がはしゃいでいる。もしもこれが現実だったら、視覚情報を失った僕は音こそ聞けても木の種類や子供の様子を知ることはできないだろう。桜はすっかり花が散って夏を知らせているし、子供達は木の枝なひっかかった風船を取ろうと跳ねている。だけど、風船を取るより飛び跳ねる方が楽しそうだ。すぐ近くなのに窓の外だというだけで別世界のような気さえしてくる。射し込む光はとても心地よかった。僕は書斎に入ろうか迷いながら部屋の中の少年を見つめている。少年は黙々と机に向かって紙に何やら書き込んでいるらしい。部屋の中からはペンで引っ掻く音と紙がめくられる音だけしか聞こえない。僕は息をすることさえ忘れていた。彼の精霊の姿が見えなかったからだ。僕は慌てて辺りを見渡した。自分の精霊は肩の上に乗っている。つまり、彼が特別なんだろうか。


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あきゅろす。
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