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◇幸せでないことの証明[200X]
 俺達は互いに孤独だった。俺が初めて皆藤優希(カイトウ ユウキ)と会ったのは病院の屋上だ。皆藤は真っ白なシーツの中を松葉杖をつきながら、しかし軽やかに泳いでいる。彼は俺が入院している病室の棟の向かい側で入院している少年だった。太陽の光など浴びたことがないような、女ならば羨みそうな白い肌をしている。それは病的な程だったが、俺はそれを美しいと思った。病名は分からなかったが、心療科だ。入院するということは家庭内で問題でもあったのかもしれない。もっとも、ここで病名が分かったところで俺達にとって何の意味も成さないのだが。
「ねえ。君、なんて名前」
 想像した通りの、硝子のようでさえある透明な声が薄い唇から発せられる。深窓の少年という単語が実によく似合っていた。
「卜部幸(ウラベ コウ)。『幸せ』って書いて、コウ」
 いい名前だね、と皆藤は言った。名前敗けだ。ちっとも幸せじゃない。
「サチ……、か。僕は皆藤優希。よろしく」
 やわらかい笑顔で、俺が最も嫌っている名をいとも簡単に言い放つので思わずギクリとした。本当の名前の読みがサチだから。その名前は俺にとって、呪いにさえ思えた。そんな俺の思考を、心を読まれてしまったような気さえする。

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