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「僕も、君も、母さんも、父さんも、街も、空も、太陽も、みんな――」
俺はこんな結末を望みはしなかった。けれど、俺一人が望んだところで優希は救えない。救えはしなかった。ここにいる俺は登場人物ですらない。ただの傍観者だ。ストーリーの欠陥でしかない。
「やめろよ。本当のことを言ってしまったらみんな思い出す……みんな夢から覚めて、消えてしまう。だから」
ヨハンはまるで、ネヴァー・ランドを守るピーター・パンだ。必死でこの世界を守ろうとして、泣きながらカインに懇願するその姿は俺そのものだった。
「作りものなら、僕は捨てるよ」
目隠しを外すと、銀眼が見て取れる。カインは無邪気に笑うと、また明日も会えるよ、とでも言ってドアに手をかける子供のように体を反転させた。何も映らない眼で空を、海を、見ている。
「海も、空も、きっと綺麗だろうね……」
目を閉じると、幾筋もの涙が流れた。とめどなく、ただ悲しみが溢れてゆく。
「ああ。綺麗だよ。陽と海が交ざる」
二人は時が止まる程の長い間、そこに留まっていた。
「さよなら」
刹那、白い影が波に呑まれる。気付くとヨハンは地に伏せ慟哭していた。
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