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◇夢に於ける透明な楽園[342]
 夢を見るとき、「これは夢だ」と自覚する夢は記憶する限りでは少ないように思う。大抵はリアリティにとんでいるか、意識そのものが夢の突飛な物語を受け容れているからだ。夢を夢だと自覚していれば夢の操作が可能だと聞いたことがあるが、この時俺は操作を拒んだ。夢だとは気付いていたのだけれど、二人の少年の姿を認めるとこのストーリーの続きを知りたくなってしまったからだ。黒髪と白い肌の少年の名はカイン。しかし、布で目隠しをしているので目をこちらから窺い知ることは出来ない。茶髪と小麦色の肌に瑪瑙の鈍い光を湛える眼の少年の名はヨハン。彼等は紛れも無く俺が書いた物語の中の住人だ。

「この世界は、作りものなんだよ。ヨハン」

 透き通るような声でカインが言う。その声では俺がよく知っている筈だった。確信もある。なのに、断片すら思い出せない。二人は丘に向かう途中で立ち止まった。

「作りもの? たいした作りものだな。お前もか?」

 ヨハンが答える。知ってはいけない事実に耳を塞ぎ、認めようとしない。知らない振りをしている。ごまかそうとするような笑みが張り付いていた。しかし、カインは止めない。


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あきゅろす。
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