GANG×HERO!
寮へ
「……………。」
「紅也?どうかしたの?」
「いや、何でもねえ」
目の前の寮の無駄なコテコテの装飾と壮大さに呆れていたとは言えない。寮というより一流ホテルだ。
校舎もさることながら、寮も相当金かけてんなこりゃ。
「ん?なんか玄関に誰か立ってねぇ?」
「え、流石に見えないよー……。」
「……おそらく、寮監だろう」
ここまでの間で、幸村も僅かながら喋るようになっていた。
「あぁ、二ノ宮さんか……。僕ちょっと苦手なんだよなぁ」
少し嫌そうに萌川が呟くのを、紅也は少し意外に思う。
「翔って、誰彼問わず気に入るワケじゃねぇんだな。いや当たり前だけどよ」
「えっ!?僕そんないい人じゃないよ!?好き嫌いはあるし……」
むしろ何でそう思ったの?と更に意外そうに返された。
「俺のこと何も知らねえうちから近寄ってきたしよ?」
「ああ…そうだね」
萌川はクスリといたずらっぽく笑う。黙っていれば人形のようだが、その表情はくるくると変わる。
「僕のこと、頭おかしい奴って思ってくれても構わないけど…」
「ん?」
「僕ね、ピピッとくるんだよね。こう……直感?っていうのかな。こっちは危ないなとか、『なんとなく』がすっごい当たるの。ほんとだよ?」
でね、と萌川は続ける。
「紅也はなんとなく、好感が持てたから。だから話しかけたの。はは、やっぱり自分で言ってても変な人だね」
たいした理由もなくてごめんね、と笑う。
「いや、そっちのが気が楽だわ。……けどよ、俺そんないい奴じゃねぇぞ」
「いいんだよ。僕が勝手に近づいたんだから。…それに、僕の話きいて笑わないでくれたから。それで十分」
そんなことを話しているうちに、一行は寮の玄関に到着した。
案の定、非常に背の高い男がへらりとした笑顔で立っていた。制服を着ていないから生徒ではなさそうだが、年はそう変わらなそうに見える。タッパはそれほど無いため、大きいというよりは細長い、といった印象を受ける。高身長な紅也や幸村よりも長い。つり眉とたれ目が特徴的だった。
「やぁやぁ萌ちゃん幸ちゃん、お帰りなさ〜い。まだ授業の時間なんだけどなぁ?」
「あ、ははは…。」
萌川が乾いた笑い声を返した。
どうりで他の生徒たちとすれ違わないわけだ。
「君が相模紅也ちゃんだね〜。あれ、話じゃ転入生二名、って聞いてたけど?」
「あぁ、いたけど置いてきたぜ」
「ん、そっか〜。置いてきちゃったか〜。なら仕方ないねぇ」
妙に間延びした喋り方をする男だった。
「あ、オレは寮監の二ノ宮暁良。あきらちゃんだよ〜。寮はもちろん、学校のみんなの平和を守るのが仕事だよ〜!何かあったらいつでも呼んでね、駆けつけるからね!ちなみにぃ、好きなタイプは押し倒し甲斐のありそうな紅也ちゃんみたいな子〜!すっごいカッコよくてかわいいねぇ紅也ちゃん!」
「…………。」
ひくりと頬が引きつって、笑ってしまう。もちろん楽しいからでも嬉しいからでもない。
語尾にハートが飛んでそうなこの男にドン引きしただけだ。
ホ、ホモだ。
よろしくねぇ〜、と差し出された右手を無視する。殴る……いや触りたくないから、蹴飛ばしてもいいだろうか。
「……相模紅也。キモいからちゃん付けすんじゃねえ、近寄んな」
触りたくなかったが、意思表示としてパシン、とその右手を振り払った。
険悪な空気に、後ろで控えている萌川がどうしたものかと戸惑った様子でいる。
二ノ宮はきょとん、とした顔で紅也を見、振り払われた自分の手を見て、また紅也を見たかと思えば、身体をぷるぷると震わせて、いきなり紅也に抱きついてきた。
たいした距離もなく、何よりあまりにも突拍子もない行動だったので、流石の紅也も身構えることしか出来なかった。
自分より背の高い男に思いっきり抱き締められて全身に鳥肌が立ち動けないでいる紅也のことなどお構いなしに、二ノ宮はギューギュー抱きついてくる。
「っぁああ紅也ちゃんヤバい!!超ツボ!恋しちゃった〜!!」
「ハァッ!?…てめぇ、ふざけんじゃねぇ離せ!!気色悪ィ!!」
「んー!いい身体してるねぇ!わ、筋肉すごいすごい!あ〜いいな〜紅也ちゃん可愛いな〜!!」
「何言っ……んッ!?」
何言ってんだクソが、と怒鳴りたかった紅也の唇を何かが塞いだ。
何か。言うまでもなく、二ノ宮の唇である。
もろに男にキスされて、思考が停止する。
「……わぁ。」
萌川の何ともいえない声があがるまで。
「…!!」
紅也はガッと二ノ宮の顎を殴り上げ、腕の拘束が緩んだ隙に膝で容赦なく腹を蹴り上げた。あるいはここで股間を狙わなかったのが、せめてもの優しさかもしれない。もしそうしていれば、確実に彼の息子は二度と使い物にならなくなっていただろう。
「ごふっ…!!」
案の定、二ノ宮は悲痛な声をあげて沈んでいく。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………えっと、紅也?大丈夫?」
「…………。」
紅也は無言のまましゃがみ込み、蹲る二ノ宮の襟首を乱暴に掴むと、痛そうに呻き声を漏らしているその唇に何の前触れもなく噛みついた。
「っ!?」
「……。」
萌川が息を飲む気配がした。紅也は知る由もないが、すぐに幸村が背後から萌川の目を両手で塞いでいた。
「…ッ、こう、や…ちゃん……?」
唇を離して、紅也がニイッと凶暴な笑みを見せる。
文字通りガプリと噛みつかれた二ノ宮の下唇は、紅也の犬歯がつけた傷跡から赤い雫がつうっ…と垂っていた。
それを犬のようにべろりと舐めとって、ようやく二ノ宮の襟首を放す。
「やられっぱなしは好きじゃねぇんだよ」
そう言って、何事も無かったかのように立ち上がる。
いつの間にか幸村の手から解放されていた萌川は、何ともいえない微妙な表情で、紅也に近づいて来た。
「紅也ってば…。もう、誰彼構わずタラしちゃ駄目だからね…自業自得って言われちゃうからね…。」
幸村さえも、後ろで呆れたような溜め息を吐いている。
心外そうに、紅也が片眉をあげる。
「タラして…?いや、キモかったからやり返しただけだろ」
「うーん、親衛隊のことといい、いまいち分かってないよね……さすが外部生っていうか」
困ったように萌川が幸村を見上げる。ちなみに二ノ宮はさっきから放置状態だ。
「……俺は相模がどうなろうと興味無い。…だが、この学園ではゲイかバイがほとんどだということを忘れるな」
「…忘れてた」
「おい…っ!」
「いやいや、流石に嘘だっつの。でもよォ、翔みたいに可愛いのなら──あぁ怒るなって──確かに気をつけないといけねぇだろうだけど、俺はまずねーだろ」
「……ホントにそうかな?」
「は?…………。」
萌川の視線を辿れば、まぁ勿論二ノ宮がいるわけで。
紅也に噛まれた唇と、蹴られた訳でもない股間を押さえて、奴は潤んだ瞳でこっちを……紅也を見ていた。
いや、190p越えてるような大男にそんな顔されても困るんだが。
「紅也ちゃん………。」
「……。」
できれば聞きたくない。
「勃っちゃった……。」
「…………。」
ああほら、聞くんじゃなかった。
「ああっちょっと待って行かないでぇー!ほらほらぁ、カードキー!紅也ちゃんの部屋は309号室ね!これないと部屋に入れないし、学園内での財布の役割も果たすやつだからさぁ〜!学食とか購買でも基本的にはそのカードで支払うからなくしちゃ駄目だよぉ〜!紛失したら寮監の俺まですぐ再発行申請してねぇ〜!」
「……。」
紅也は二ノ宮の手からカードキーを奪うと、さっさと部屋へと向かう。その背中に二ノ宮が懲りずに声をかけた。
「こーやちゃーん、俺さぁ〜情報屋みたいなのもやってるからさぁ〜!エロゲーの妹ポジションだと思って頼ってくれていいからねぇ〜!!愛してるよぉ〜!」
「……ぜってぇ、アイツには借りを作らねえ…。」
なんだか大変な所に来てしまったらしい。紅也はとっとと部屋で一服しようと足を進めた。
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