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GANG×HERO!
いざ

「動かねえな……。」

門の上から眼下を眺めて呟く。
折り重なる二つの身体は微動だにしなかった。 

紅也は足場の悪いそこから飛び降りてゲシゲシと足で二人を揺すってみたが、どちらも起きる気配はない。

面倒だし放置してしまおうとも考えたが、とりあえず持ち帰ることにした。学内なら誰かいるだろうし、後は任せてしまえばいい。一人ずつ両脇に抱えて、校舎へと向かう。

背後から感じる、ぎらついた視線を受け流しながら。


「つーか俺、道知らねェんだけど」


何のための案内役だよ、ぽつりと漏らした当然の不平に答えてくれる人は誰もいなかったけれど。



大きな噴水のある庭園を通りすぎて少し歩くと(どうもメルヘンチックな造りの庭に居心地の悪さを感じつつ)、間口の広い玄関が見えた。さて、この二人をどうしたものか。保健室に放るのが一番なのだろうが、ただでさえ広い校舎、しかも来たのは初めてだ。というより何より、めんどくせぇ。


「玄関先に置いてくかー……」

「───あの、」

「?」


突っ立っていると、近くで澄んだ声が聞こえて、紅也は振り返った。

「あの、重く…ないですか?」

声をかけてきたのは、小さくて華奢な体つき、栗色でサラサラのおかっぱ頭、陶器みたいに滑らかで真っ白な肌、長い睫毛と大きな瞳の───。

「……女子?」

「残念でした、男子です」

言われ慣れているのか、男子生徒はただ苦笑しただけだった。

制服のネクタイの柄は緑色。相模と同じ二年生だ。だらしなく着崩した相模と違いきっちりとネクタイをしてはいるが、堅すぎる印象はあまりない。

「……だよな。男子校っつってたしな。お前、ここの二年か?」

「うん、僕は2年A組の萌川翔。好きに呼んでもらっていいですよ」

萌川はふわりと笑う。笑顔を浮かべると余計に可憐な少女に見える。つられて紅也もニッと笑った。

「俺は相模紅也。呼び捨てでいいし別に敬語もいらねーよ。……で、お前は?」

「…………。」

先程から一切声を発さない男が、萌川のすぐ斜め後ろに彼を守るように立っていた。ネクタイの色は同じだ。

「僕の親友、兼ボディーガード……みたいな感じかな。幸村芳誠だよ。ちょっと口数が少ないけど、強くて優しい自慢の幼なじみ。……ところで、何があったのか分からないけど、その人たち二人も抱えてたら動き辛いでしょう?手伝うよ」

芳誠が、と萌川はいたずらっぽく笑って付け足した。





「ああ、やっぱり相模くんって転校生だったんだ。目立つ容姿なのに見たことない顔だなぁって思ったから」

あ、もちろんいい意味でね!と萌川は笑う。


小柄な変装少年を幸村に抱えてもらい、紅也は下敷きになっていた細身の生徒──萌川曰く生徒会副会長らしい──を横抱きしながら廊下を歩いていた。萌川と幸村は紅也の抱えているのが副会長だと気付くとかなり驚いたが、二人にも事情を説明し、とりあえず目的地を保健室にした。


「ああ。多分、幸村の持ってるやつも転校生だと思う、同じときに来たからな。ちゃんと話したワケじゃねえけど……多分かなり変な奴だぜ、ソイツ」

「そ、そうなんだ…。…それにしても、葵副会長もツイてないね。こんなこと副会長の親衛隊に知られたら、その子大変なことになるよ。……いや、相模くんの今の状況もすごく危ないけどさ……ごめんね」

萌川から、少しこの学校のことを教えてもらった。

学園のトップは生徒会であり、生徒会役員は顔と家柄、全てを含んだ人気が全てだという投票選挙で決まること。

生徒会はもちろん、その他にも人気のある生徒には『親衛隊』と呼ばれるファンクラブみたいなものがあること。

人気者に接近して親衛隊に目を付けられると、制裁を受けることも少なくないこと。

紅也にしてみればなんじゃそりゃとしか言いようがない。親衛隊?制裁?随分仰々しい呼称だがどこの国のいつの時代の話か、いっそファンタジーか。

この学園にくる前までも、紅也の喧嘩の強さや顔の良さ、圧倒的なカリスマ性に惹かれた取り巻きたちはいた。だが紅也には同い年の弟という最強で最高に相性のいいパートナーがいたため、あまり取り巻きたちを意識したことはなかった。いつも弟とふたり、だった。


「親衛隊……ねえ。大層な名前だけど、ようは舎弟みたいなもんか」

「…えっと、だいたい合ってる……のかな。ちょっとニュアンスが違う気もするけど…。」

「あぁ?んで、制裁ってなんだ?」

ここでいう「制裁」とやらは、おそらく自分の知っているそれとは毛色が違うだろう。紅也が馴染んでいるのは、断髪したり、指を詰めたり、あるいは──下手したら命に関わるものだった。


「……ようは、質の悪いいじめだよ。例えば──」


例えば、と言ったきり萌川は口をつぐんで、足を止めてしまう。訝しく思って紅也も足を止め萌川の視線の先を辿ると、体格の良い男子が5人ほど、行く手を塞ぐように立っていた。

表情を硬くした萌川の前に幸村がサッと立ち、抱えていた転校生をドサリと放る。

そいつらがニヤニヤした顔で萌川に話しかけた。


「あっれぇ〜姫様、今日は付き人二人もいんの〜?」

「よォお姫様、こんなとこフラフラしてたら、うっかり襲われても文句は言えねえなあ〜?」

「つーか誰だよテメエ?萌様に纏わりついてんじゃねえ!!」

最後の台詞は紅也に向けられたものだ。他の男たちがニタニタと萌川を見ている中、その男は紅也を憎々しげに睨んでいる。

当の紅也は、「ふーん」とか「ほー」とか言って楽しそうにニヤニヤしていた。

「なぁ翔、」

萌川に向かってそう呼びかけると、野卑た笑いを浮かべていた男たちまでもがギョッとした顔で紅也を見た。萌川はあちゃーといった顔だ。確かに好きに呼んで良いと言ったし、それは本当だ。でも、でも!空気読んで相模くん!!

「テメェ…!萌様の名前を呼び捨てにするだと…!?許さねえ!!」

ああほらやっぱり、と萌川は顔を青くする。

「なぁ翔、これが『制裁』ってやつか?」

「ぅえ!?だ、だいたいそんな感じ……?」

「なんだ、またニアピンかよ」

目を血走らせて殴りかかってくる男を難なくヒョイとかわす。目線で合図して萌川を下がらせると、紅也は幸村の方に目を遣った。そして(お?)と片眉を上げる。

「景気いいなァ、幸村」

「……。」

幸村は既に一人を沈めていた。チラッと後ろを見て萌川の無事を確認すると、二人目と対峙する。

相模は幸村の力量を見定めるように手は出さない。これっぽっちの人数の喧嘩じゃ、興奮したりはしゃいだりしない。かと思えば懲りない拳が飛んでくる。

「萌様に…近づくな!」

「うぜェ」

相模は長い脚を振り上げて、男の鳩尾に容赦無く膝を入れた。相模はまだ抱えた副会長とやらを放り投げてはいない。振動で副会長が呻いた気がしたが起きることはなかった。

ぅぐぅ、といった情けない呻きを漏らして男は意識を失って崩れ落ちた。相模の目線は幸村に向いたままだ。

幸村の動きは我流のそれではなく、格闘技か武道か、なにかしらのしっかりとした型をもったものだった。無駄な動作がない。二人目をのしてしまうと、あとの男たちは気圧されたように走って行ってしまった。

「芳誠、相模くん、大丈夫!?」

「…ああ」

幸村が初めて声を出した。

「よかった……あのさ、相模くん」

「ん?」

「……僕も一応、親衛隊持ちなんだ。結構今みたいな、いかつい人たちも多くて、だから、その…。僕といると、また絡まれたり、陰湿な制裁を受けたりするかもしれない。でも僕……っ。」

「…大丈夫だぜ、翔。言ってみな?」

続きを言いづらそうに、でも伝えたそうにする萌川の頭に、紅也はポンポンと手を置いた。

萌川はそれに励まされたように顔を上げ、しっかりと紅也と目を合わせる。

「相模紅也くん。僕と、友達になってくれませんか」

「ククッ、そんなことかよ。……ああ、いいぜ。俺もお前のこと気に入ったしな。幸村もなかなか面白そうだ」

「!」

「つーか、喧嘩売られるのはむしろ好都合だな。楽しくなるだろうが」

萌川がおっきい目を更に見開く。それから、蕾が花開くように笑顔になっていった。

「ありがとう、相模く…」

「ストップ」

「えっ?」

「呼び捨てでいいっつったろ。『くん』って柄じゃねえしな」

唇の片端を上げて、ニッと笑う。悪役みたいなふてぶてしいその笑い方がよく似合うなあ、と萌川はぼんやり思った。

「うん!よろしくね、紅也!」
 
何故かは知らないが、この無邪気な少年に随分と気に入られたらしい。

「あ、……つーかよォ」

「うん?」

こてん、と萌川が首を傾げる。


「俺んち、ヤクザなんだが」



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