GANG×HERO!
まえのひ
───side:夏野 聡
時は少し遡り……。
【西園学園生徒会室】
「ひーーーーーーまーーーーーーーー!!!」
「うるさいですよ、夏野君」
「はひっ!ごめん葵!ごめんってば!笑顔で怒んないで死んじゃう!!」
聖人君子のような笑みを浮かべてゆっくりと俺から視線を外す葵。
その穏やかで優雅な仕草からは想像できないが、葵は実は怒らせると怖い生徒会役員ナンバーワンだって、オレ知ってるんだから。
「何か、言いましたか?」
「ううん、なんでもっ!なんも言ってないって!」
はひー。
微笑んだ男子生徒の名前は葵貴裕(あおい たかひろ)。生徒会副会長の3年生。
決して崩れることのない、笑顔と敬語に、美しささえ感じる身のこなし。
親衛隊には王子様みたいに扱われている。人気投票じゃ、抱かれたいランキング3位、抱きたいランキング4位、総合ランキング2位だ。
「…このデータからいくと、完全に隠れ鬼畜攻めだよな…敬語攻め…フヒヒヒ……」
「…まったく…貴方という人は相変わらず……。」
呆れた様子で俺を見てくる葵は、やっぱり美人さんだ。
「おい、貴裕!」
オレが和んでいるその時、我らが暴君が生徒会室の扉を盛大な音をたてて開いた。
「かいちょー、うるさーい」
「どうしたんですか?」
「貴裕、お前に急用だ!」
あー、かいちょー俺のこと無視したー。
「……瀧斗にそういう頼まれごとをして、ろくな目に遇ったことがありません」
「…ああ。」
「それでも貴方は、私にその用事を頼むのですか?」
「………そうだな。貴裕が一番適役だと思ったんだが…。」
かいちょーが俺のほうを見る。
「え、俺!?俺難しいコトわかんないしー、めんどいのはパスパス〜!」
俺は渋い顔をするかいちょーの手にある書類を見やった。
「俺は忙しい。篠宮も別件で使ってる。だから、貴裕か夏野、」
かいちょーはバンッ!と机の上に書類を広げた。
「明日、この2人の転入生を出迎えろ」
その履歴書みたいなやつは2枚あって、俺は上に重なってたほうを見た。
そして、叫んだ。
「うおおおぁぁあああああああああぁぁあああああああああああああああ!!!!!!」
「うるせえ!!」
「うるさいですよ、な、つ、の、くん?」
「ごごごごごごごめん!!だって、だってさー!!」
俺はその履歴書をかいちょーと葵に見せる。
「ほら見てよこれ!この子!!いかにも怪しいもじゃもじゃの黒髪!今時どこに売ってんの、っていうビン底丸眼鏡!身長156?ちっちゃいねー!くっは!王道すぎて言葉が出ないっ!!」
「十分出てるだろ」
「これは!これは是非!葵にお迎え係をやっていただきたい!!」
「え…?私、ですか?楽しそうな貴方ではなく?」
あったりまえ!
そして迎えに行った葵の笑顔を見て、転入生くんは『その作り笑いやめろよな!』みたいな感じで葵の心をキャッチ!
今までの媚を売ってくるだけのやつらとは違う転入生くんにメロメロになっちゃう生徒会メンバー!
巻き起こる波乱と転入生くんをめぐる甘酸っぱい恋のドラマ……!
あーもう、たまんない!
……っていうのは、本人たちに話したら意味ないから、言わないけど。
「そう!オレ、どーしても外せない仕事あってさー!頼むよ!ね、ねっ!?」
「先ほど、暇だ暇だと騒いでいたのはどなたでしたか……?」
「ほっ、ほんと!ほんとに仕事思い出したのっ!!」
「……まぁ、その程度のことなら、構いませんが…。」
葵は机に視線を戻す。
「瀧斗、転入生は2人いるんですね?」
「ああ。…今夏野が持ってるワカメ頭のほうが桜田春。なんでもうちの理事長の甥らしい」
「ぷっっっは!」
もう完璧じゃん!ありがとう神様ー!!
「で、こっちのチャラそうなオレンジ頭が相模紅也。……こいつがだな」
「どうしました?」
「…ちょっと特殊な家の人間だ。怒らせないように気をつけろ」
「……それを私に行かせるんですね、瀧斗…。」
「…だから、悪いとは思ってる」
およ?
オレが王道転入生くんに想いを馳せている間に、なんか話が進んじゃってる。
かいちょーが葵に静かに怒られてた。
かいちょーこと西園学園生徒会会長、百瀬瀧斗(ももせ たきと)。百瀬と葵とは幼馴染みだ。
この学園の生徒の、トップに立つ人間。
もちろん人気投票は、ぶっちぎりの1位。
ちなみにムカツクほどのイケメンで偉そうで、でも無意識に従いたくなっちゃうようなすんごいカリスマ性があって……、これは王道の俺様生徒会長×無垢転入生が見れちゃうんじゃないかと期待大!
かいちょーは地毛の黒髪のままだしそんなに派手なアクセサリーも付けてないけど、ちょーカッコいい。さすが学園のNo.1。
まぁ、有名な大手財閥の御曹司だからね。あんまりチャラチャラしてられないのが現実かな。でも制服はだらしなくない程度に着崩してて、かいちょーとか恋愛対象としては全然好みじゃないオレから見てもカッコイイんだ。
その百瀬かいちょーは、俺が持っているのと別の履歴書をじっと見ている。
「…かいちょ?どうかしたの?」
「……、いや、何でもない。」
紙を机に戻して、かいちょーは忙しなく踵を返した。
「それじゃあ貴裕、明日頼んだぞ!」
「はい。瀧斗も雑用頑張ってくださいね。」
「雑用って言うんじゃねえ!」
また大声で怒鳴りながら、かいちょーは部屋を出ていった。
「…私にも仕事、あるんですけどね…。」
葵のぼやきを聞こえないふりをして、俺は自分の席に座った。
胸の中は、明日の転入生くんのことでいっぱいだった。
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