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GANG×HERO!
なにがしたいの

コンコン、と軽いノックの音で仕事に集中していた百瀬は顔を上げる。

「風紀委員です」

「入れ」

「失礼します」

入ってきたのは2年生で風紀副委員長の平沢だ。疲れてます、というのが表情と目の下の隈から隠し切れてない。

「おい、大丈夫か平沢…。顔色悪いぞ」

「大丈夫……ではないかもしれませんね。なにしろ普段の見回りにG組対策に、転校生の起こす不祥事の数々……。正直、投げ出したくもなりますよ」

「また何か起こしたのか、桜田」

思わず眉間に皺が寄る。

ただでさえ、昨日の食堂の一件から生徒会役員の(百瀬のところ以外の)親衛隊がピリピリしているのだ。

桜田自身はいつも生徒会か他の親衛隊持ちの誰かと一緒にいることがほとんどだから直接制裁に遭うことはないだろうが、二次被害というか全体的に学園の雰囲気が良くない。

そのうえ無駄に力が有り余っているのか、窓ガラスや調度品など学園内の器物破損が報告されている。

故意ではない事故だと本人も周りも主張するので、反省文を書かせて(もちろん提出されていない)実家に弁償金の請求書を届けているが。請求書のことは桜田自身は知らないだろう。話をまともに聞いていない様子だった。

まだ転校してきて二日目だぞ……と遠い目をしてしまう。

「ああ、桜田ですか……。そうですね、じゃあまずは桜田のほうから」

「まずは、だと……。」

嫌な予感しかしない。

「先ほど、食堂での出来事ですね。桜田は葵先輩と夏野先輩と篠宮と一緒に役員スペースで昼食をとっていたのですが、葵先輩がいなくなってから突然駆け出してある生徒のもとへ、そのある生徒っていうのが2年の萌川翔で。当然、幸村芳誠もいました。初対面の様子でしたが萌川と幸村のつれない態度に桜田は激昴、萌川に対して暴言を放ちそれに対して幸村が顔面パンチ───の寸止め。これは萌川に止められていますね。その険悪な雰囲気のまま桜田は萌川に『もう関わらないようにしよう』と言われてギャンギャン吠えてましたが篠宮の愛でひとまず落ち着きました。萌川の親衛隊はかなり桜田と生徒会に対して爆発しそうです。以上です。」

「…………。」

淡々としたトーンで話す平沢の顔には『もう勘弁してくれ』と書いてある。

百瀬はあまり生徒に生徒に弱っている姿は見せたくないのだが、思わず深いため息をついた。

「桜田は何がしたいんだ……。」

「さあ?とりあえず、これで来年度も萌川の生徒会入りは絶望的になりましたね…。」

「……そうだな…。」

人気投票の生徒会役員選挙では、萌川は今年度も本来生徒会メンバーであるはずだった。成績も家柄もよく、人気も高い、要領のいい萌川は生徒会としても欲しかった。

蹴ったのは萌川自身だ。組織を嫌う理由はおおよそみんな知っているから、無理強いする者もいない。

結果として現在、生徒会メンバーで2年生は篠宮だけだ。しかし篠宮はその器はあるにも関わらず来年も学園のトップになるつもりは毛頭ないらしく、まだ先のこととはいえ来年度の生徒会長の座は候補者すらいない現状だ。

「会長たちが卒業した後、どうなってしまうんでしょうね…。」

「……。」

「あ、っと。出過ぎたことを…すみません。ええっと、各親衛隊については、校内の見回りの時間と範囲の拡大強化と情報収集により力を入れていく方針です」

「ああ、頼む」

「はい。これが、その報告書になりますので確認印をお願いします。……はい、それではもう一件の方ですね」

「……。」

そうだった、桜田の問題だけではない様子だった。

「今度はなんだ」

「まだ詳細はあがってきていないんですが、G組に挨拶を…喧嘩をふっかけに行った生徒がいるらしいです」

「はっ……!?G組だと!?」

また面倒なところをピンポイントに!!

「被害者はすべてG組生徒らしいので、風紀にこれ以上の報告は上がってこないかもしれません。なんでも幹部連中が屋上で集まっているときに廊下でたむろしていた1、2年を襲ったようで、大きな抗争は無かったようです…。被害者も、病院送りになるような怪我人は出ていないようです」

「…………。」

どいつもこいつも、

「一体何がしたいんだ……。」

頭を抱えても仕方ないと、許されたい。

「で、そっちは桜田じゃねえんだろう。誰だ」

「はあ。それが風紀で名前、分からなくて……。長身でオレンジ色のパーマでものすごいイケメンって情報だけは得たんですけど……会長、わかりますか?」

「…………。」

一時間ほど前に会った時、彼はなんと言っていた?

確か……『用事済ませてただけだ』と。

「……………………。」

「……あのー……生徒会長?」

すぅ、と息を吸って、



「相模紅也ぁああああああ!!!!」



らしくもなく、叫んだ。











──side:百瀬瀧斗


結局そんな日が2日ほど続いた。いや、相模のG組への挨拶はあれっきりだが。毎日何かしらのトラブルや制裁未遂の報告が来る。未遂で済んでいるのがまだ救いか。

1日かかっても事後処理やら通常業務やらが終わらず、すっかり暗くなった頃にふぅ、と一息ついて大きく伸びをする。明日までの急ぎの用事は、なんとか片付けられた。

バキボキ、と肩や腰が鳴る。

「あ゛あーー……。」

残業抱えた新米サラリーマンの気分だ。百瀬の家にいてそういった職に就くことはまず無いが、レアな経験だと楽しんでやる余裕が今の俺には無かった。

「ふふ、随分お疲れのようですね。瀧斗」

「……お前」

形ばかりのノックをして、返事も待たずに入ってきたのは幼馴染みの貴裕だった。いや、生徒会副会長の、というべきか。

「……よォ、楽しんでるか、貴裕」

貴裕は俺のニヤリとした笑みに一瞬きょとんとした顔を見せたが、すぐにいつもの穏和な表情を浮かべる。

「ええ。あなたの頑張る姿を見るのは楽しいです」

「てめえ……」

白々しい答えにピクリ、とこめかみが疼いて、俺の中の暴君が現れてくる。それでも貴裕は困ったような笑顔のままだ。

「ねえ、そんなに怒らないでくださいよ。あなたに嫌われるのは…ちょっと、嫌です。……はい、これ。球技大会のメンバーリストと審判の割り振り、トーナメントと時間割です。各部への必要物品の貸出願は各顧問に確認印を貰っています。予算案は年度始めに出されたもので大丈夫そうでしたのでそのまま運用していますよ。内容はほとんど去年のものをそのまま採用していますが、問題はないでしょう。はい、プログラムの見本です、確認してくださいね。それから、当日の監視体制に風紀を考えて割り振ってみましたが、風紀委員長さんはまだ復帰できないとのことなので…細かい配置は副委員長の平沢くんと瀧斗に任せます。それと、親衛隊とG組の対策について───瀧斗?」

「……あ、ああ」

「え?ちょっと、私の話聞いてましたか?」

聞いてなかったなんて言ったら許しませんけれど、と貴裕がにっこり笑う。

「お前……仕事、してたのかよ」

球技大会───そうだ、すっかり忘れていた。いや、俺が間抜けなんじゃなく、クラスのホームルームなんて出席している暇はなかったし、俺のところに行事関連の書類が一切来ないから、その他の仕事で忙しくて気がつかなかった。

ということは、今回の行事関連の書類はすべて貴裕に行ってたってことになる。

「おや、今更なにを言うんですか。ふふ…変な人ですね。私は生徒会副会長ですよ?」

「もちろん、誰よりも知ってる。だがお前、桜田と……。」

桜田と、ほとんど一緒に行動しているはずだ。

もちろん学年が違うから常時べったりという訳では無いが、少なくとも夏野がいるときには貴裕も傍にいたはずだ。

そんな時間の合間を縫って、仕事をしていたという。

「貴裕、お前…なにを考えてる?」

「……なんだと思いますか?」

「おい、笑ってんじゃねえよ。生徒会室には全然来ないくせに」

「…寂しかったんですか?」

「違えよ!!」

ひょいひょいと躱される、この攻防も昔からだ。

なんだか力が抜けて、椅子にもたれ掛かってクツクツと笑いがこみ上げてくる。

「…っ、っくく、は、ははは……」

「た、瀧斗……?」

「あーもう、なんでもねえよ。っくく……。」

よかった。

よく分からないが、こいつはまだ、染まっていない。

「……あの。生徒会長のサインが必要な書類は、黄色いファイルにまとめておいたので」

「あー分かった分かった」

「…………それから、ちゃんと食べて、寝てください。こんなこと私が言える立場じゃありませんが…。私はね、瀧斗。あなたに不健康になって欲しいわけじゃあ……」

「それはこっちの台詞だな」

「え?」

立ち上がって貴裕の額に手を当てる。貴裕は突然の動きに目をぱちぱちさせていたが、やがてふっと笑った。

「熱なんてありませんよ、大丈夫です」

「目の下のクマは、お前お得意の美容法で隠せちまうからな。俺は騙されねえが」

「……はい、寝ますよ。でも、彼のそばに居ることは変えません」

「別に、好きにしたらいい。ただな」

真正面からじっと貴裕を見据えれば、相手も目を逸らしはしなかった。

「お前を信頼している奴らのことも、少しは考えてやれよ」

「…っ、はい……。」

「ま、お前はそんなこと、とっくにわかってるんだろうがな……。」

は、と小さなため息をついて椅子に戻る。

その手元を見て「コーヒー…」と貴裕がぽつりと呟いた。

「ん?」

「コーヒー、自分で淹れたんですか?瀧斗が?」

「ああ、そうだが」

「…………。」

貴裕は訝しげに俺を見て、止める隙もなく冷めたコーヒーを勝手に口に含んだ。

「…………まずい」

「……そうか」

「まったく、少し待っててください」

貴裕が呆れた顔をして、給湯室に向かう。

よかった。あいつの淹れるコーヒーはうまいのだ。



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